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今年も、バレンタインという日がやってきた。
行事を事前に気づいたのは、私として結構珍しい方だな…。
今年もあいつはくれるんだろうか…?
それは勿論静留のチョコだ。私と会って次のバレンタインから、静留は欠かさず私にくれる。
何か…毎年もらうだけではつまらないような気もする。
折角気づいたことだし、たまにはあげてみるか。新鮮かもしれない。
「そうするか…」
なつきはそう呟いて立ち上がった。
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当日
「な~つ~きぃ~」
「だあああああ!!ここでくっつくなぁ!!」
急に来られるとびっくりするんだ。…だが、決して嫌なわけではない。
「ここやなかったらええの?」
首を傾げてくる姿は…何というか、可愛い。
「まあ…な…」
そう言うと、静留はまるでオモチャをもらえた子供の様に笑った。
「なんや今日は優しいなぁ~」
静留はまた私の背中に顔をすり寄せた。
「だからやめろぉぉお!!」
なつきが静留を振り払うと、静留は何事もなかったかのように、話し始めた。
「そういえば、今日は何の日か知っとる?」
静留は腰に巻き付けていた腕を放し、嬉しそうに言った。
「…何がだ?」
勿論知っている。でも、ここで渡したらつまらない。もうちょっと粘ってみよう。
「今日はバレンタインデーやんか。何で気づかへんのかなぁ、周りがこんなにチョコレートの匂いするんに…」
静留は笑って言った。
「そういえばそうだな…」
「やから…はい、これ」
静留は持っていた鞄から、小さな袋を取り出した。
「うちはなつきが好きどすえ」
照れたようにはにかみながらそれをなつきに渡した。
「あ、ああ。…ありがとう」
未だに礼を言うというのは慣れない。
「ホワイトデー楽しみにしてますえ?」
「…何でだ?」
「やって、お返ししてくれるんやろ?」
「いや、しない」
なつきはポケットに手を突っ込んだまま、静留に向き合った。
謎の行動と言動に、静留は首を傾げるばかりだ。
「今、お礼するからな」
そう言って、ポケットの小さな箱を静留に突きだした。
「ほら……市販のだから…まあ、味は確かだ」
目を丸くして静留はそれを見ている。
「…いらないのか?」
「そ、そんなことあらへん、けど」
静留はそれを慌てて受け取って、なつきを見た。
「どうした?」
「えと…なつきがくれはるなんて思ってへんかったから…」
俯いた顔が赤くなっているのが分かる。でも、こっちだって結構恥ずかしいのだ。
「それじゃあな…」
居たたまれなくなってその場を去ろうとすると、
「待っておくれやす!」
なつきはいわれるままその場に止まった。
「な、なんだ…?」
自分の顔も今相当赤いだろう。でも、振り向かなければそれが静留には分からない。
「あの、あんじょうおおきに…」
でも、私はそういう静留の顔が見たくて振り向いた。
そこには心底嬉しそうに笑う静留がいた。
「あ、ああ…」
なつきは再び歩き出した。
とりあえず、どっきり成功だな…。
静留のあんなに驚いた表情、初めて見たかも…。
なつきはそう思いながら、家路についた。
Fin.
なつ静は夫婦でも初期でもいつでも美味しくいただける。