第三章 始まり
どんよりとした暗い空。
いつもの枯れた風景。
私はそれをぼんやりと見つめていた。
朝であるはずなのに、ここはいつも生気がない。当たり前といったら当たり前だ。
ここには何一つ生きているモノはないのだから。
「…フェイト。プレシアが呼んでるよ?」
不意に後ろから声がした。
「…すぐ行く」
フェイトは振り返らずに答え、黒いマントを翻し、無数の蝙蝠となって外へ消えた。それを見て、声をかけた柿色の髪に、人にはない耳を持った女性はため息をついた。
「全く…母親のこととなるとすぐこれだ…」
そう呟くと、彼女はフェイトを追いかけるために部屋を出て行った。
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「母さん…呼びましたか?」
母がいつもいる、玉座のようなものがあるただっ広い部屋に、フェイトは足を踏み入れた。
「フェイト…?」
フェイトが近くまで来ると、俯いたクセのある黒い長髪が持ち上がり、顔を覗かせた。
フェイトはそのまま少し怯えたようにプレシアを見る。プレシアはその様子を見て、顔を歪めた。
「急で悪いのだけれど…あなたには人間界に行って貰うわ。教会への…そうね、潜入捜査とでもいうべきかしら?」
フェイトの身体がビクッと震えるのを見て、プレシアはうっすらと笑みを浮かべた。プレシアが立ち上がり、フェイトのもとへと向かった。
「出来るわよね…あなたは…私の娘なんだから」
そうあくまで優しい声色で言い放ち、俯く顔を片手でつかみ持ち上げる。目がかち合う。
「…はい……分かりました…」
震える声で答える。すると、プレシアはつかんでいた手をすばやく離して身を翻した。
「頼んだわよ……」
それだけ言うと、闇に溶けるようにその姿は消えてしまった。フェイトがそのまま立ち呆けていると、先程の女性が駆けてくる。
「どうしたんだい!?フェイト!」
後ろから心配そうな声がした。
「大丈夫だよ…アルフ……何でもない」
「それなら…いいけど…」
フェイトは顔を歪めるアルフの横を通り過ぎて、外に向かった。
「どこへいく気だい!?」
「教会…」
「きょ、教会…!?そのまま行ったって殺されるのがオチだろう!?何を言って…」
「母さんに…」
言葉の途中でフェイトが口を開いた。
「母さんがそれを望んでる…だから…」
「だからって…!!」
「大丈夫ですよ…」
二人の会話に低めの女性の声が割り込んできた。二人はその声の方向に振り向いた。そこには、フェイトに向かって膝をつき、頭を垂れている紫色の短髪の女性がいた。
「私たちがお手伝いする算段ですから…フェイトお嬢様」
「トーレか…」
「私たちにお任せ下さい。もう準備は整っております」
「それは安全なんだろうね!?」
アルフが噛みつくように言った。
「勿論です…」
数秒の沈黙。それを破ってフェイトがトーレのもとに歩み寄った。
「じゃあ…行こう…」
「はい…」
トーレは立ち上がり、フェイトを先導するように歩き出した。アルフもそれに渋々ついていった。
続く
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