第二章 日々
私が朝目覚めると、いつものように窓辺で雀が鳴いていた。
「ん~」
背伸びをして窓辺に近づく。雀たちは私に気づいて逃げていった。特にそれを気にすることもなく窓を開く。あまり気温の上がらないこの土地の春は、パジャマだけでは少し肌寒い。
「なのはちゃ~ん♪起きてる~?」
そんな声と共にドアが開いた。
「うん。起きてるよ~。おはよう、はやてちゃん」
「おはようさん」
「どうしたの?こんな朝早く」
「ん~、たまにはええかなぁと思って。毎朝早くから訓練訓練の教導官さんに激励をと」
茶目っ気たっぷりにはやてはそう言った。なのはも笑い返す。
「それで用件は?」
「いや、そんな大層な連絡でもあらへんよ。今日来る子が多分午後過ぎてからやと思うってことだけや」
「やっぱり連絡あるんじゃない」
「でもま、そんなではないやろ?」
「まあね。さあてと、今日も早朝訓練あるから…そろそろ着替えていかないと…」
「うちは今日暇やから、ちょう見せて貰ってもええ?」
「え、訓練?別にかまわないよ。はやてちゃん上官じゃない」
「訓練もええけどその豊かに育った乳を「それは駄目」……いけずぅ。まあええわ、後で行くから、あ、でも訓練にはつきあわへんよ?」
そう言いながら、ドアが閉まっていった。まさにはやてのごとく、朝っぱらから何だったのだろう?私は着替えながら、笑みを絶やさなかった。
ここはウミナル。ミッドチルダ国の首都の隣接市。そして私はここ、第六教会でエクソシストという仕事をしています。エクソシストっていうのは…簡単に言えば魔――バンパイアを祓う仕事です。ほとんどの人は聖職者って呼ぶんだけど、その中には騎士っていうのも含まれるから…。
「おはよう、高町」
「あ、おはようございます。シグナムさん」
あ、今すれ違った彼女は騎士です。エクソシストは主に聖力を使いますが、騎士達は気功を使います。どちらも不思議な力というところでは変わりないです。
…と、説明している間に訓練場に着いてしまいました。
「「「「おはようございます!!」」」」
四人の声がそろう。
「おはよう。スバル、ティアナ、エリオ、キャロ。もうウォームアップは済んでるようだから、早速始めようか?」
「「「「はい!!よろしくお願いします!!」」」」
うん、いい返事。
この子達は今私が教えているエクソシストや騎士の卵達。中級のバンパイアくらいなら倒せるけれど、独り立ちまではまだまだ。
私は、いざとなれば前線に出るけれど、基本的には次の時代のエクソシスト達を育てる教導官という仕事をしています。
「スバル!そんなんじゃ捕まっちゃうよ!!素早く動いて!!動きながら相手の動きを読んで、次の手を考える!!」
「はい!」
早く独り立ち出来るよう、全力全開で教える。ここ数年少しは沈静化しているとはいえ、相手は何をしているのか分からない。十年前…私が九歳の時の…あの聖戦のような惨劇がいつ起こるとも限らないのだから。
それは戦争だった。
バンパイアと人間の戦争。
はっきり言ってこちらの方が劣勢だった。だが、事態は急展開。一部のバンパイアがこちら側についたのだ。
おかしな話だと思う人もいるだろうが、人間と仲良くしてきたいというバンパイアもいるらしい。しかし、簡単に信用できるはずもなく、現在でもあまり良い関係とは言えない。
聖王教会―教会の本部である―は完全に認めているのだが、本部内でもいざこざがあるわけで…。
現在、そのバンパイア達と繋がっているのは聖王教会の数人と、この第六教会だけである。つまり、大切なパイプラインとも言える。
人からバンパイアに落ちた者―スレイブ―はある程度傷つけたり、ホワイトアッシュの杭を打ち込んだりすれば死ぬが、純血のバンパイアは本当の名前を知らないと滅することが出来ない。
だが、比率にするとバンパイアの中でも純血は約5%。数が少ないのが唯一の救いである。それでも、その純血を倒さなければ数は減らない。
そんな時、彼らが役に立ってくれたのだ。バンパイア同士な訳だから名前を知っていて当然であった。
今では、彼らの作った偽名と本名の名簿を覚えることも聖職者達の授業にある。
……と、話はずれたが、その時、多くの人が死んだ。大人も子供も男も女も。あの時の記憶はまだ脳裏に焼き付いて離れない。
そして、もう二度とあんなことになって欲しくない。
だから、私は戦う。一人でも多くの命を救うために。
この戦いが早く終わるように。
続く
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