いつにも増した大戦争だった。
私も戦った。でも、疲れ果ててしまった。
……血が欲しい。力が…でも………
…誰か…来る…?
私は急いで毛皮で身体を覆った。もう何も考えられない。私の意識は闇に落ちた。
この温もりをただ抱きしめたくて
第一章 出会い
気がついた時、私は何かに覆われていた。
暗い…?
もぞもぞとそこから這い出ると、それは毛布だったらしい。暗がりでもバンパイアなので、部屋を見渡すことが出来る。質素だが清潔感のある部屋だ。
――――カチャ
誰か来たようだ。自分の魔力は漏れていない、大丈夫だ。
「起きたの…?」
「ウウウゥ」
とりあえず唸ってみる。でもその子は臆することなくこちらにやって来た。その子の胸に、首から下げた十字架が揺れる。
聖職者か?厄介なところに拾われたと、私は心の中で舌を鳴らした。
「大丈夫だよ…」
やばい…気づかれるかも…。まだ十歳にもいっていないような少女だが、聖力を帯びている。いくらフェイトが魔力を隠すのが上手くても、聖職者―しかもこの聖力は…エクソシストだ。きっとバレる。
「ガウッ!!ガウッ!!!(これ以上近づくな!!)」
「大丈夫…怖がらないで…」
「ウゥ…(クソッ…)」
もう、駄目か…。いつもなら逃げ出すことも殺すことも出来る。でも、こんなに魔力を消費している今じゃ…。
私は覚悟して目をギュッと瞑った。
だが、
降りてきたのは温かい手だった。
「ほら~、怖くないでしょ~?」
な、んで…?
明らかに聖力に満ちている。絶対にAAAランクオーバーのエクソシストだ。気づかないはずがない。でも、気づいている様子がない今、声を出すのは戸惑われた。
「ほら、怪我見せてごらん?」
そう言って私を抱き上げると、ベッドの上に乗せた。よく見ると、自分は包帯だらけだった。あまり痛みがなかったから、この子が治療してくれていたのだろう。
「う~ん、だいぶ酷かったけど…治ってきてる。一週間もすれば完治かn「キャウンッ!」」
彼女の手が傷口に触れて、痛みに声を上げてしまった。
「ご、ごめんね!」
「ウゥ~」
傷口を自分で嘗める。あの時の刀は銀の刃だったのか…これは治りが遅いはずだ。
「治るまでは…ここにいていいからね…?」
少女は寂しそうに笑った。それを見て、フェイトは何故か心にしこりが出来たことを自分でも気づいていなかった。
「あ、そういえば…これが君の傍に落ちてたんだけど…飼い主さんかな?フェイト・テスタロッサって…」
冷や汗が流れるのが分かった。狼に変身したあの時、朦朧としていてちゃんと隠していなかったのだ。
聖職者に名前を知られるなんて…。もう…この子を殺すしか…
「それとも君の名前かな?わんちゃん♪」
わ…、わ?
私の中で、今までのコトが繋がった。私のことを犬だと思っているのだ。
だから魔力の感知を怠っているのかもしれない。それなら好都合だ。このまま犬のふりをしていよう。仲間内でお前の変身は犬に近いと笑われたことがあったが、今は変えないでよかったと心から思った。
「とりあえず…フェイトって呼ぼうかな?」
「ワンッ」
「…フェイト?」
「ワンッ」
「あ、これってわんちゃんの名前なんだね?名字まで書かれてるなんて愛されてるんだね」
彼女が笑う。
「怪我が治ったら市場にでも行こうね。きっと飼い主さんが見つかるよ」
「ワンッ」
「本当に分かってるの~?」
犬らしく、なるべく人懐っこいように彼女の顔を嘗めた。
…やばい。この子の血、凄く美味しそう。
処女の血が美味しいのは周知の事実だ。
「分かった分かった。だからもうやめてっ」
夢中になって嘗めていたらしい。私は気がついてすぐに止めた。
擽ったそうに笑っていた彼女が、一度部屋を出る。と、すぐに戻ってきた。
「はい、ご飯だよ~」
…生肉…?こんなものどこで…?
「結構手に入れるの大変だったんだよ?でも、仲の良い友達とかがね…手伝ってくれて…」
疑問に答えるかのように彼女は言った。
よく話す子だ…動物相手なのに。
まあいい。バレていないようだし、怪我が治るまで動けない。それに、どっちにしろ私はこの子を殺さなければならない。
こんな笑顔の似合う優しい子を傷つけるのは気が乗らないが、我らバンパイアのため……母さんのためだ。
今までだってそうしてきた。そしてこれからも……。
この二人の出会いによって、十年後に始まる第二次聖戦が意外な結末で終わりを迎えることを、二人はまだ知る由もなかった。
続く
フェイトはうっかりやさんですよね。
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