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乃梨志摩デート
ラブラブですよ?

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春を通り越して夏になってしまったんじゃないかと思えるような暑さの中、志摩子は走るまでいかないまでも、急いでいます、という感じを前面に出しながら歩いていた。
それは今日、乃梨子と出かける約束をしていたからだ。だが、遅刻しそうという訳でもない。はっきりいって時間十分前には着くだろう。ならば何故急いでいるかというと、もうすでに乃梨子がいるという確信を持っていたからだ。乃梨子は自分が誘ったときは必ずと言っていいほど、三十分前には来ている。
志摩子は駅へと続く階段を早歩きで登った。
 
 
日差しは夏までないにしても、暑いものは暑い。これが夜になると急激に冷えるから厄介だ。この季節に風邪をひく人が多いのも肯ける。
乃梨子は志摩子を待ちながらそう思っていた。薄着して来て良かったと思うと同時に、失敗したと思った。今日はたまたま自分が早く来たからいいものの、志摩子さんをこんな場所で待たせる訳にはいかない。今度はどこで待ち合わせしようか。喫茶店なんかいいかもしれない。

「あちー」
乃梨子は手をかざして空を見上げた。
 
 
志摩子が待ち合わせの駅に着いたのは、やはり十分前だった。改札を出ると、志摩子はすぐに乃梨子を見つけた。志摩子は声をかけようとしたが、思いとどまって、柱の後ろに隠れて様子を窺った。
乃梨子は空を見上げて、広場の真ん中に立っているオブジェのようなものに寄りかかっていた。だがすぐに空にあった視線は周りを見回し、腕時計を見ている。その動きが、自分を待っている為にされた動作だと思うと、こそばゆくて、志摩子は笑みを零した。
志摩子はその姿を暫し堪能していると、乃梨子がこちらを見た。気づいたらしい。志摩子は何故か咄嗟に隠れた。そしてそっと先程の場所を覗き見た。
 
いない。
 
不思議に思って、さらに顔を出すと、後ろから声を掛けられた。

「志~摩子さん!」

驚いてそちらを見ると、乃梨子が笑顔でそこに立っていた。

「乃、乃梨子!」

「何してるの?もしかして、私が待ってるの見てたの?」

図星を指された。こうなると素直に言うしかない。

「本当はすぐ声をかけようと思ったのだけれど…待ってる乃梨子を見てたら、私を待ってくれてるんだ、って嬉しくなっちゃって…それで見てたの…」

自分の頬が熱くなっていくのが分かる。多分それは乃梨子も同じだろう。

「そっか…」

乃梨子は手持ち無沙汰に頬をかいた。志摩子が顔をあげると乃梨子が照れたように笑っていた。

「それじゃ、行こ!」

「ええ」

 
************
 
 
今日は、仏像鑑賞や教会巡りに行くわけではなかった。ホワイトデーのお返しのために志摩子を誘ったのである。本当は教会巡りをしても構わなかったのだが、たまには変わったこと(?)もしてみたかったので、遊園地に行くことになった。勿論、一般では遊園地が普通行く場所ではないかという問いは愚問である。
                       
 
 
「…随分たくさんいるのね」
「そうかな?普通より少ないと思うよ」

あまり混まなくて、それでいて設備が整っている場所のあまり混まない日を乃梨子自身が選んだのだから当然である。だが、それでも志摩子にとっては人がたくさんいると認識されるらしい。

「志摩子さん、遊園地来たことないの?」

「ない事はないのだけれど…小さい頃だったから、よく覚えてなくて…」

志摩子は恥ずかしがって少し俯いていた顔をあげた。

「乃梨子は?」

「私は…中学校以来かな。友達と来たことあるよ」

「そう。それじゃ、何が楽しいか教えて」

「うん!とりあえずもう少し中に行こう!」

そう言って志摩子の手を引いた。
 
 
「まずはオーソドックスに、コレ乗ろうか?」

乃梨子はそれを指差した。

「メリーゴーランド?」

「そう。まずは楽なのから行かないと」

後で大変になるのかと問いかけようとしたが、志摩子は乃梨子に背を押されて口から出ることはなかった。
ただ回って、馬が上下に動くだけなのだが、それなりに楽しい。メリーゴーランドって不思議な乗り物だ、と乃梨子は思った。横目で志摩子の方を見ると、楽しそうに笑っていたので、さらに嬉しくなった。

「楽しかった?」

「ええ」

後ろに音符マークでもつきそうなぐらいのトーンで志摩子は言った。

「次、これ行こうか?」

「これ…大丈夫なの?」

「大丈夫じゃなきゃ乗り物にならないでしょ?これが駄目だったらジェットコースターとか乗れないよ」

「…そうね。行きましょう」

別に乃梨子が無理強いした訳ではなく、志摩子は自らジェットコースターに乗りたいといったのだ。
だから乃梨子は、ジェットコースターに乗ることを最終目標として、志摩子に乗り物に慣れてもらうためにこういうルートにしたのである。
志摩子と乃梨子が乗った小さな籠のようなものは、随分と高くあがり、園外まで見渡せた。乃梨子は志摩子の顔色をそっと伺ったが、全然怖がっている様子はなく、辺りを見回して楽しんでいた。これなら大丈夫かな、そう思って乃梨子も外を眺めた。
 
「んじゃ、これ乗ったら、ご飯にしよう!」

乃梨子はそう言ってそれを指差した。本当はもっと慣らしてからの方が良かったのかもしれないが、食事をしてからだと、気持ち悪くなるとかもしれないので、先にしたほうがいいと判断したのだ。

「乃梨子!早く行きましょう!」

今日の志摩子さん…子どもみたいにはしゃいでるなぁ…

「ちょっと待ってよ!」

走って先に行ってしまった志摩子を、乃梨子は追いかけた。
 

************ 

 
「志摩子さん…大丈夫だった?」

「ええ。ばっちり」

ジェットコースターを終えて食事をしながら、乃梨子は尋ねた。とりあえず、志摩子の口からばっちりなんて言葉を聞くとは思わなかった。
「始めは緊張したけれど…とっても楽しかったわ」

「そうみたいだね。志摩子さんの叫び声なんて、初めて聞いたかもしれない」

「私も、乃梨子の叫び声初めて聞いたわ」

二人はそう言いあいながら、笑った。

「次、どこ行く?」

「そうね…」

食事の途中にもかかわらず、志摩子はパンフレットを広げた。普段では考えられないことだ。それだけはしゃいでしまっているのだろう。

「ここ行かない?」

そう言って指差したのは、思いもよらない場所だった。
 
 
「本当に行くの…?」

「…ええ」

そう言った本人でさえ、生唾を飲んでいた。二人は今、お化け屋敷の前に立っていた。とりあえず、二人の率直な気持ちをいうと、怖い、であった。だが、怖いもの見たさが上回っていたらしく、意を決して中に入った。
 
「ああー、怖かった」

二人はベンチでジュースを飲んでいた。叫び過ぎて、喉が渇いてしまっていた。

「そう?そんなに怖がっていなかったじゃない?」

「…あれは怖すぎて固まってたの」

始めの空白は、本当は腕にしがみついて来る志摩子の胸があたっているのが気になって、緊張していた、という部分も含まれているが、誤魔化した分である。

「それに、一人が怖がってると、もう一人はしっかりしなきゃって思うものであって…」

「それじゃあ、無理しちゃったの?」

心配そうに聞いてくる志摩子の無意識の上目遣いに、胸が一つ高鳴ったのはとりあえず隠しておく。

「ううん、全然。志摩子さんの可愛い顔が見れて良かった」

乃梨子はそう言って柔らかく笑った。

「乃梨子ったら…」

志摩子が顔を赤く染めて俯くと、

「よーし、次行くぞー!!」

乃梨子は勢いよく立ち上がった。
 
 
************ 
 
 
一日が過ぎるのは早いもので、あのあと乗り物に三、四つくらい乗るともう夕暮れになっていた。

「今日は楽しかった?」

「ええ、とても。ありがとう、乃梨子」

そう言って志摩子は微笑んだ。

「いえいえ、こちらこそ」

乃梨子が少し大げさに言うと、顔を見合わせ、今度は二人で笑った。

「そろそろ帰りましょうか…」

「そうだね…」

志摩子と乃梨子は手を繋いで、もと来た道を歩いていった。
 
 
待ち合わせの駅に着くと、もうほぼ空から橙色は消えていた。

「今日は誘ってくれてありがとう」

「そんなお礼言われるようなことしてないよ。むしろ私がお礼言いたいよ。一緒に来てくれてありがとうね」

まだ、繋いだ手は離れていなかった。否、離したくなかった。明日になれば会える。それは何かが起こらない限り不変なはずなのに、何故かタイミングを逃していた。

「それじゃ、また明日…ね、乃梨子」

そう言って先に手を離そうとしたのは志摩子だった。スッと力を抜く。
しかし、その手は強く握り締められ、そのまま引き寄せられた。力を抜いていたし、そんな行動をとると思わなかったので、志摩子は驚いて、乃梨子の顔を見た。少し泣きそうな、でも自分の行動を恥じているような顔。

「どうしたの?」

駅前なので、それなりに人通りがある。人がいる前ではほとんどそんなことしなかったはずなのに…、志摩子はそう思いながら、また顔が熱くなっていくのが分かる。

「えっと…特に理由はないんだけど…」

乃梨子は志摩子から視線を戻した。

「…志摩子さんを抱きしめたかったからかな?」

そう言うと、ヘラッと笑った。そんな照れ隠しの笑顔が、とても愛おしかった。

「乃梨子…」

志摩子は、目の前の唇に軽くキスを落とした。乃梨子はびっくりして今までにない素早さで離れた。

「し、し、志摩子さん!?」

顔を真っ赤にしてどもる乃梨子を見て志摩子は笑った。

「今日のお礼よ」

そしてさらに志摩子らしからぬことを言った。

「今日の志摩子さん…いつもの志摩子さんじゃないみたい」

「それじゃあ…乃梨子だけの私ね」

笑顔で言うと乃梨子は志摩子に笑顔を返した。

「……そっか、私だけのか…なんか嬉しいな。…それじゃ、今日の私も志摩子さんだけのだからね」

そう言って乃梨子は志摩子の近くまで戻った。手の届く位置でも、二人は見つめあったままだった。

「それじゃ、ごきげんよう。また明日」

「ええ、ごきげんよう」

そう言って二人は別々の帰路に着いた。

 
また明日

 
それは明日が楽しみになる、魔法の言葉。
 

 
Fin
 
分かった。この二人って何か初々しいから好きなんだ。 
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