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なつ静
シリアス

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なつきはいつものように、屋上で授業をサボっていた。
HiMEについて調べを入れた後、学校へ来ることは来るのだが、残り二時間分の授業に出る気にもなれず、ほぼこうやっていた。
でも、まだとりあえず授業日数は足りている。

少し寒いな…

暖かくなってきたとはいえ、まだ風が身にしみた。
いつもは、授業の終わりを知らせる鐘の音で目覚めるのに、今日起きてしまったのはそのせいかもしれない。時計を見ると、授業が終わるまでまだ半分くらいあった。
再び眠りにつこうとするが、妙に眼が冴えてしまって、どうにもならない。手持ち無沙汰になって寝返りを打った。すると、屋上の入り口が目に入った。しばらく見ていると、扉がキィと音を立てて、少し開いた。
なつきは身体を起こした。今の時間、否、ここに来る人間など、私以外にいるのだろうか。自分と同じくサボりに来た奈緒や、寝過ごした時に迎えに来てくれる静留くらいなものだ。
まだ授業中であるため、後者はないだろう。
そこまで思考を巡らしてそちらを見つめていても、何も変化はなかった。どうやら風で開いてしまったらしい。ため息をついて、なつきはまた横になった。
とりあえず何もすることがないし、ゴロゴロしていよう。
そう思ったのも束の間、することがないというのは、結構大変なもので。逆に時間が長く感じてしまうということに気づいた。

「あ~~!!!!」

盛大に声を上げて大の字に寝転んだ。強い日差しに思わず手を翳す。手で遮られた空には、あの忌々しい赤はなかった。さすがに日中は太陽の光に負けるらしい。

「どないしたん?そない声上げて」

上から見上げてくるそれで、空の半分は見えなくなってしまった。その代わり、見知った笑顔が自分を見下ろしていた。

「し、静留!?」

驚いて起き上がり、事実を確認する。どう見たって静留だ。いつもの、生徒会長の証であるクリーム色のジャケットを着て、屈託のない笑顔を浮かべている。

「はい、静留どす」

「な、何で…!?」

「三年生は授業数少ないんどすよ。今日はもう四時間で終わりどした。急になつきに会いとうなってな、探しとったんよ。教室の前通っても姿見えんかったし…そしたらここで見つけたんどす」

エスパーか何かのようになつきの心を先読みして言った。全く敵わない。
なつきは身体を支える左手はそのままに、右手で頭をかいて呆れた様な、照れたような表情で俯いた。そんななつきの隣りに静留は膝を折って座った。

「何でだ…?」

「はい?」

静留はなつきの方を見た。

「何でお前は…そんなに私の事が分かるんだ?」

あるいは私以上に、私を知っている彼女。その人は日差しと同じように柔らかく笑っていた。同性なのに、惚れてしまいそうな笑顔。胸が一つ高鳴ってしまい、自分を少し嫌悪した。

「だって、うちはなつきが好きやから。好きな人の事はなんでも分かるんどすえ」

「な、何でお前はそう恥ずかしげもなく……!!」

顔を真っ赤にして、なつきはそっぽを向いた。隣からクスクスと堪えたような笑いが漏れている。なつきはそれでやっとからかわれていたことに気づいた。

「静留!!」

振り返って静留を咎めようとした。が、それと同時にチャイムが鳴った。

「…五時間目、終わったみたいやなぁ……そろそろうちも帰るし…それにちゃんと六時間目はでなきゃあかんえ?」

「……私も帰る」

「駄目や。行かんと、いつもなつきが何処でサボってるか珠洲城はんに言うてしまおうかもしれませんえ?これでも一応生徒会長やからなぁ。サボっている人をほっとくわけにはいかへんのどす」

なつきはすごく渋ったようだが、分かった、とだけ言った。

「はよ行きましょか?」

静留は立ち上がり、なつきを促した。なつきは重い腰を上げて、屋上から出ようとした。

「静留は行かないのか?」

「うちはもう少しおるさかい、先に行っといてや。あ、それともうちに来て欲しいん?」

また言われた軽口になつきは少し頬を赤らめた。

「…全く。それじゃあな」

「ええ、あんじょう気張りよし」

静留はそう言ってなつきの背を見送った。ドアが閉まった向こうからも、遠ざかる音が聞こえて、静留は安堵のため息を漏らした。
そして先刻とは打って変った冷たい瞳を見せた。

「そこに…おるなぁ。」

そう言って、その一角を見つめたまま自身のエレメントを出した。

「少しは知恵があるようやけどなぁ…隠れても無駄やで」

そう言って静留はその、貯水タンクのパイプの陰になっているところに薙刀を刺した。すると、その部分に何かが出てきたように変色した。

「カメレオンみたいなやつやね。これはなつき達も苦労するわ」

出てきたオーファンは大きなトカゲのようだったが、牙があり、両腕に刀の刃のようなものがついていた。
これが最近学園で噂になっている、薄暗くなってから一人で歩いていると足や腕をいつの間にか切られているというものの犯人だろう。
最初は傷がそれ程深くに至っていなかったためあまり知られていなかったが、最近では木が倒れていたり、校舎に大きな傷跡が残っていたりしたりと、大事になって来たので事件になってしまっていた。

「鎌鼬言うた方がええか…」

呟いて、静留はそれに向かって薙刀を構えなおした。しばらくすると睨み付けていると、相手の方から動いてきた。牙と刃が表に出るように丸くなり、タイヤのように凄いスピードで回り始めた。さすがに鎌鼬なだけあって動きが早い。静留は薙刀の刃を伸ばし、鞭のように振るった。だが、オーファンはそれを難なくすり抜け、後ろから再度攻撃を仕掛けてきた。擦れ擦れで避けようとするが、左腕を少し掠めた。

「くっ……」

静留は顔を歪め、右手で傷口を押さえた。そこまで深くはないらしい。

こないチョロチョロ動き回られたら、埒が明きませんなぁ…

そう思うと同時に、六時間目のチャイムが鳴った。静留は相手をゆっくり見つめた。今は自分が有利だと思っている筈だから、逃げても追いかけてくるだろう。静留は屋上の手すりに刃が当たらないように、巧く巻きつけ、そのままそこから飛び降りた。着地と同時に足に少し衝撃が来た。静留は辺りを見回して、誰もいないことを確認した。上を見上げると、オーファンは壁伝いに下へ降りてきていた。完全に下りられたら、向こうの方が断然早い。静留は、校舎の中からなるべく見えにくい方向の森の中へと駆け出した。

随分と走って校舎からかなり離れた時に、後ろの方で草が揺れた。静留は近くにあった木の枝に鞭の部分を巻きつけ先ほどとは逆の要領で上に上がった。先程走っていた場所を、何かが通り抜ける。それは目標を見失い、動きを止めた。静留は木から下りて、再びそれの目の前に立った。
一瞬校舎の方を見て、一言呟いた。

「清姫」 

すると、彼女の後ろから六つの首を持つ、蛇のような怪物が現れた。すると、オーファンは怯えたようで、すぐに姿を隠した。

「見えへんようになるのは少し厄介やな……」

そういって薙刀を構えてすぐ動けるようにする。すると、草が右側の草がほんの少しだけ揺れた。それを逃さず、薙刀で振り払った。それが飛んでいった方向を見る。だが、それは刃の部分だけだった。驚いてそちらに気を取られてしまい、先程の場所からもう一つの影が近づいてくるのを認識するのが遅れてしまった。構えなおすが間に合わず、それは右のわき腹を大きく切り裂いた。

「くあっ……!!」

スパッと斬られた為、最初はそれ程でもなかったが、じわじわと痛みだしてくる。

「うう…」

低く呻いて傷口を抑える。オーファンは先程斬った時に付いた血を一舐めして、再び攻撃態勢に入ろうとしていた。

「清姫!!」

そう叫ぶと主人の意図を瞬時に理解し、清姫は自らの首を一点に集中させ、腹の間に空洞が出来るような形を取った。此方に伸びてきた一つの頭の上に乗って、静留はその中に入った。オーファンも獲物を逃がすものかと追って中に入った。最後の首が入ってきた場所を閉ざし、空洞は完全な密室になる。入ってきたそれは、静留が壁に背を預けて傷を抑えているのを見て、笑うように口の端を持ち上げた。静留はその様子を見て、不敵に笑った。

「……袋の鼠やね……清姫!!!」

再び声をかけると、空洞が段々と狭くなり始めた。それと同時に、静留は最大限に鞭の力を利用して、辺り全てを覆うように振り回した。これでもう逃げられない。オーファンも危険を察知して、辺りを走り回ろうとしたが、すぐに鞭に捕まった。

「…捕まえた」

そう言うと、空洞の縮小が止まり、首は別々に動いた。

「清姫、たんとお食べ」

そう言うと、身体の中心の口が大きく開いた。静留は器用にその中へ捕まえたオーファンを入れた。口が閉じると金属が擦れるような音と、肉を引き裂くような音が混じったような音がした。

「はばかりさんどした」

そう言うと清姫はそこに何もなかったかのように消えた。
緊張の糸が切れて、先程の痛みがぶり返す。木を背にして、崩れるように座った。呼吸が荒くなる。が、それと共に安堵する。

なつきが怪我せんで良かった…。

一番最初にそれが思いついた。そしてそれに苦笑した。

好きなんやなぁ……。

でも、この胸の愛しさも苦しさも…永遠に伝わることはないのだろう。
不思議と涙は出ない。心は穏やかだった。

六時間目の終わりのチャイムが鳴る。
彼女は何も知らずに授業を受けている筈。
その愛する人に思いを寄せ、射す様な痛みに神経を奮い立たせながら、静留は家路についた。



Fin.


戦闘シーンとか好きだから!!

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