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なつ静時代劇風パラレル



************



第三章 ユクエモシラヌ

1.

さらに数日が過ぎた。なつきが怪訝していたことは何もなく、無事にまったりとした日々を過ごしていた。それと同時に疑問に思い始めていたことがあった。

「なぁ、静留」

「ん?」

静留はお茶を注いで、それを差し出しながら相槌を打った。

「……お前、何者だ?」

この鈍感ヘタレはやっぱり鈍いので、静留が何者か全く気がついていなかった。静留も静留で、なつきの前ではあまり煌びやかな着物は着ないので、なつきの中では、何処かの武士の娘止まりで、まさか一国の姫だとは夢にも思っていない。

「さぁ?何者やろね?」

「さぁ?って…すぐ分かるって言ったのに、全然分からないじゃないか…」

悠長な言い方に、なつきは痺れを切らして、なつきはゴロッと横になると、静留に背を向けた。

「なつき、そんな拗ねへんで。おぶうが冷とうなってしまうえ?」

「…拗ねてなどいない」

照れて怒鳴ると思っていた静留は、意外にも静かに返されて少し戸惑った。

「……なつき?」

静留は回り込んで、なつきの顔を覗き込んだ。

「ま、人には言いたくないこともあるか……私だってあるし」

なつきは静留の呼びかけには答えず、自己完結させるように呟いた。そしてガバッと立ち上がり、縁側に座った。静留はその様子に何か得体の知れないものを感じたが、嘲笑と苦笑が入り混じったような笑顔で、なつきの背を目で追った。

「なつき…」

ゆっくりとなつきの傍により、隣に座る。

「別に隠してるわけや、ないんよ」

なつきは何も答えずに、前を向いたままだった。
静留もそのまま話を続けようとした。が、

「静留さま!」

襖の外で、誰かが呼んだ。

「…何や?」

少し不機嫌そうに返す。

「当主さまがお呼びです。今すぐにと仰っておりました」

静留はあからさまに溜息を吐いた。

「なつき、後で全部話しますさかい」

そう言って、静留は立ち上がり、部屋を出て行った。


2.

なつきは静留が出て行った後、特にすることもなくそのまま外を眺めていた。
静留はたまに悲しそうな顔をしていた。しかも最近になって増えてきている。呆けているのも多くなった。

何があったんだ…?

静留のあの性格からして、かなり重大なことでないとそんな風にはならない事はもう分かっていた。ほんの数ヶ月しかいないのに、静留の気持ちがとてもよく分かるような気がする。静留もそうだろう。

なつきは何かを決心したような表情でガバッと立ち上がった。

静留の様子を見に行こう。

いつも静留と一緒にという限定付きだが、この部屋を何度も出たことがある。少しくらいならこの屋敷がどうなっているかは分かっている。なつきは廊下に繋がる襖に足音を立てないように近づいた。静かに襖を少しだけ開く。そして、顔だけ出して周りに人がいない事を確かめ、完全に廊下に出て襖を閉めた。

静留は確かこっちに…。

なつきはほぼ勘を頼りに歩き始めた。
何度歩いてもこの屋敷は広いと思う。本当にここから静留を見つけ出せるのだろうか。…その前に帰り道を覚えていられるだろうか。

取り敢えず端からしらみつぶしに探そうと思い、なつきは庭が見える廊下に出た。
音を聞き逃さないようにしながら、見つからないように、静かに気配を消して歩く。
何個目かの廊下の奥から、少しだが声が聞こえてきたのに気がついた。その廊下を覗いてみると、袋小路のようになっていて奥に部屋があった。どうやらここから声がしているらしい。

「……やかて!」

小声だが、緊張感のある声が聞こえてくる。きっと静留の声だ。なつきは気配をなるべく消すようにして会話が聞き取れる位置まで近づいた。

「静留。もう祝言が近いゆうんに、あんな浪人と遊んどって…この話がどないに重要か、お前も分かっとるはずやろ?」

「……はい。……でも、もう少し…」

「…そないなことで時間割いて、先方もあまりええ顔はしておらん。…ほんまはわしも…お前をあんなところへ嫁がせとうない。……せやけどこの国の為や。……堪忍な」

なつきは呆然と立ち尽くしてしまった。

国の為…?

静留に出会ってからの記憶が頭の中を走馬灯のように巡って、思考をぐちゃぐちゃにしていった。

「やけど…」

「この国がなくなってもええんか!!」

姫…!?

「…だから!!あんのぶぶ漬け姫に一発言わなきゃ気が…「そんな大きい声で言っちゃダメだよ、遥ちゃん!!暇を出されちゃうよ!!」」

「はっ!この私を辞めさせるようだったらこの国も品位が落ちたって嘲笑ってやるわ!!」

なつきは声に気づき、そちらを振り返る。
呆然としていて近づいてくる人に気づかなかったらしい。

「…何者だ!?」

その気配に中の二人も気づいたのか襖の奥から声が聞こえた。

やばい…!!

なつきは、元の部屋へと戻ろうと、元来た道を走るが突き当たりにさっき大声を出していた二人(一人)のうちの一人が、仁王立ちをしていた。慌てて急ブレーキをかける。

「ちょっとアンタ!!!一体何をやっているの!?勝手に出歩くなと言ってあるでしょう!?」

バレてしまっては仕方ない。なつきは大人しく肩を落としてため息をついた。

「ちょっと静留の様子が気になったんでな」

「アンタが気にしなくったっていいの!!早く戻りなさい!!」

「な…!?心配して何が悪い!!お前だってそんなこと言えた筋じゃないからここにいるんだろう!?」

随分な言われ様に少し頭にきて、なつきは言い返してしまった。それと同時に後ろから襖を開ける音がして、三人はそちらに注意を向けた。
出てきたのはやはり静留だった。

「三人共……何してはるん?」

なつきは静留の姿に呆気にとられた。
いつもと違う煌びやかな着物。少し化粧もしている。いつも綺麗だが、思わず顔を赤くするほどその美しさがさらに際立っていた。

「し…しずる?」

上擦った声でその名を呼ぶ。すると、静留はゆっくり三人との距離を縮めていき、目の前まで来ると、少し苦笑したような表情で返事をした。

「…はい。なんでっしゃろ?」

「お、お前…」

「アンタ!!お前って姫に向かって無礼よ!!!」

そう言い掛けると、隣にいた五月蝿い奴が、近距離にも関わらず大声で言った。

「ひ…め…?」

予想外の展開に思考が一瞬止まる。その思考が再び動き出す前に、後ろから男が現れた。

「静留!!」

静留は少し怯えたような目でその男を見た。

「こやつか…?」

「はい…」

静留は悲しそうな顔をして俯いた。傍にいた二人はいつの間にか頭を垂れていた。なつきは状況があまり飲み込めぬまま、その男を見上げた。視線が合った途端、その男はなつきを睨み付けた。反射的になつきは睨み返してしまった。
そんな均衡が数秒続いた後、その男は少し表情を緩めた。

「……いい目をしてはるな」

急な事になつきは訝しげに顔を顰めた。

「今日はもうええ」

それだけ言うとその男は先程の部屋へと戻っていった。

「……何だったんだ、あいつ」

なつきが不満そうに呟いた。

「なつき」

間髪いれずに静留がなつきを呼んだ。後ろにいる静留が今どんな表情をしているのか窺い知れなくて、なつきは恐々と振り返った。

だが、そこにはいつもの笑顔があった。ホッと溜息をついて答える。

「何だ?」

「先に部屋に戻りよし。うち、着替えてから行きますさかい」

次に静留は遥と雪之の方を向いた。

「二人はなつきを部屋へ送ってあげなはれ」

「ええっ……あ、はい」

一瞬激しく嫌な顔をした遥だが、横の雪之に小突かれて、渋々返事をした。
静留はそれを見届けると、なつきが来た方向とは逆に歩き出した。数歩行ったところで振り返る。

「あっ、あと遥さん」

遥は声をかけられてビクッと肩を揺らした。

「なつきにお説教したらあかんよ」

予想と違った言葉にホッとしたのか遥はあからさまに胸を撫で下ろした。静留はそれっきり振り返らずに歩いていった。

「さぁ行くわよ!!ついてらっしゃい!」

いつもの調子を戻したのか遥は元気よく歩き出したが、連れて行かなければならないはずのなつきを置いてどんどん行こうとする。

「ちょっと待ってよ遥ちゃん!なつき様、行きましょう」

こちらは客人の扱いを心得ているらしく、きちんと様付けまでして案内してくれた。

「あ、ああ。ありがとう」

なつきはたった今気づいたようにこちらを向き、軽く礼を言った。そして三人はなつきが元居た部屋へと向かった。

庭にある桜の木は蕾を抱きながら、地に隠れそうな太陽の赤い光を浴びていた。


3.

数十分後。やっと着替え終わった静留は、なつきの居る部屋へと向かっていた。長い廊下を重い足取りで歩きながら、なつきのことを考えていた。

会うのが怖い。でも会わなければならない。……会いたい。

だが、歩みは最後の角で止まった。静留は自分を奮い起こすように首を振ると、一つ息を吐いて顔を上げた。

「開けますえ」

「ああ」

静留は了解をもらって襖を開けた。なつきは静留が部屋を出た時と同じように縁側に座っていた。違っているのは部屋全体が夕日色に染まっているところだった。
静留は少し間を空けて、なつきの隣に座った。横を見るが、なつきはまだ外を見たままだった。

「…なつき?」

「姫なのか…?」

あまりに呆けているので声をかけたが、全く別の言葉で返されてしまった。

「はい……そうどす」

静留は俯いて答えた。

「この国は…藤乃の国だよな?」

「はい」

「だから姓を言わなかったのか?」

「…はい」

なつきがフッと笑った声が耳に入り、静留は再びそちらを見た。先程と違い、驚くほど強い眼差しでなつきは静留を見ていた。静留は少し物怖じしながらも頬を染めた。

「…つまり、お前は神崎の国に嫁に行くんだな?」

静留はその言葉に悲しそうに俯いた。町中に知れ渡っていたことをなつきが知らないはずがない。

「…そうか」

無言を肯定と取ったなつきは少し目を泳がせた。そして何かを決心したように再び静留を見据えた。

「静留」

呼ばれて、静留は俯いたまま上目遣いでなつきを見た。

「頼み事がある」

「……なんでっしゃろ?」

なつきと一緒に居られるのもあとどのくらいか分からない。静留はなつきの頼み事なら、多少無理をしても聞いてあげたかった。

「私をお前のお供として仕えさせろ」

予想外のことに静留は口を開けたままなつきの次の言葉を待った。

「……私はお前を守りたい」

はっきりと心が込められていたが、その言葉の裏に何かが隠されているような気がした。

「ほんまに…?」

こういう時はすぐに綻びを見つけなければ後悔することを知っていた。

「あ、ああ……本当だ」

案の定、元々素直ななつきは視線を逸らした。

「…ええよ」

なつきの顔がパッと明るくなった。が、

「なつきが本当のことを言うてくれはったらなぁ」

なつきは少し狼狽したよう再び視線を逸らした。

「…すまない」

やはり静留には言えずに、なつきは素直に謝った。

「今は言えない…が、お前を守りたいという気持ちは本当だ」

真っ直ぐな瞳に、静留はやれやれといった風に溜息をついた。

「堪忍な…意地悪してもうて。分かりました、父上にそうさせてもらえるよう、気張ります」

静留が笑うと、なつきも安堵したようにやっと笑顔を見せた。だが次の瞬間なつきは何かに気がついたように笑顔を固まらせた。

「お前の父上…いや、殿はもしかして…さっきの」

「なつきがすごい形相で睨み返した人どすなぁ」

静留はしれっと答えた。

「それってすごくやばくないか!?」

そんな無礼な武士をお供にするのに反対しないわけがない。

「大丈夫やて。さっき言ってましたやろ。いい目をしてはるって。少しは認めてくれてますさかい」

「そうなのか…?」

「そうどす」

心配そうになつきは静留を見たが、自信満々に静留が言うので多少気にしながらも押し黙った。

もう夕日は沈んでいたが、星が夜空一面を彩っていた。

 

 

4.

「で…なんでこうなるんだ…?」

なつきが溜息を吐いている向こうで、あのでぼちん…遥とか言ったっけ?それが木刀で素振り、いや振り回している。どう見てもやる気満々なのは分かる。

「なつき、気張りよし!!」

静留が後ろから声をかける。なつきは大またで静留に近づいた。

「おい。何故こんな騒ぎになっているんだ…?」

「えーとなぁ、なつきをお供にって父上に言うたら、えらい反発されてしもうてなぁ。でもなつきが今の御付より強かったらええって言わはったから…」

「ああ!そのくらいのことは覚悟していた…だが、何故こんなに人がいるんだ!!!というかこれじゃあ見世物じゃないか!!」

「いやぁ、遥さんは随分前からうちの御付でなぁ。この辺の国じゃあ一、二を争う武士や言われとるんよ。やからうちの武士達が挙って見に来たんやろなぁ」

静留は屈託のない笑顔で答えた。なつきはそれを見て盛大に溜息をついた。

「というかなんか統一性がないが…本当にこれでこの城の武士なのか?」

沢山の武士が御座で、よく言えば和気藹々と騒いでいた。

「堅苦しい場やない限り、自然体であるように言ってはるんどす。そうすれば不満も出にくいやろ」

なつきは、何度目かの溜息をついてその惨状を見回した。

自由すぎるぞ…この城。これでよく討ち落とされなかったな…

「よっ、静留!」

静留は後ろから肩をポンっと叩かれて振り向くとよく見知った赤い髪の娘が立っていた。なつきも思考を向こうにやって、そちらを見る。

「奈緒!」

「久しぶりねぇ。城へ行ってもここへ来ても全然会ってくれないから、何してるかなと思いきや…まぁた女の尻追っかけてたのねぇ」

嫌な笑顔で奈緒は静留に向けて言った。

「はぁ!?」

なつきがそれを聞いて大声をあげた。

「嫌やわぁ。うちがいつ女子はんのお尻追いかけてたゆうん?」

そんな事は気にせずに静留は話を続ける。

「…訂正する。寄ってくるのよね。ま、とりあえずこの城にいる女はあんたの妾でしょ?」

呆れたように言葉を投げた。

「……お前、誰だ…?」

なつきの低めの声に奈緒がやっとそちらを向いた。機嫌が悪いのが傍から見ても分かる。

「あんたこそ誰よ?」

奈緒は笑いながら睨み返した。明らかに遊んでいる。

「私が先に聞いたんだ!!答えろ!」

「自分から名乗るのが礼儀なんじゃないの?」

フンっと鼻を鳴らして、それを跳ね返した。なつきも言い返そうとしたが、正論に口をパクパクと開けるだけで、音にはならなかった。

「私の名は玖我なつきだ!!」

「うん、知ってる」

自分の着物の裾を見ながら、さも当然のように言った。

「お前!」

「だって本人からは聞いてないし」

嘲るように笑った。なつきは俯いたまま肩を震わせて、爆発寸前だった。だが、

「ふふふっ」

隣から堪えたような笑い声が聞こえて、睨み合っていた子犬と子猫がそちらを向いた。

「あ、堪忍。そっくりやなぁと思うて」

静留が肩を震わせて笑いを堪えている。

「「笑うな!!」」

揃った声に一瞬キョトンと目を丸くすると、静留は再び笑ってしまい、二人は一度顔を見合わせて、フンッとそっぽを向いた。

「ちょっとアンタ!!戦う気ない訳!?それだったら早いとこシャッポ巻いて帰りなさい!!「尻尾だよ…遥ちゃん」」

待ちくたびれたらしく、遥が木刀を右手で担いで左手を腰に当て、堂々とした様で立っていた。なつきはそれを見て好戦的な笑みを浮かべた。

「すまんな。そろそろ始めようか?皆も待ちくたびれたろうしな」

なつきは木刀の鞘に当たる部分を握りなおした。

「では始めましょう!!」

いつも遥の後ろについているやつがいつもとは違う大声で周りの人達に聞こえるように叫んだ。周りもそれに乗じて歓声が上がる。

「なつき」

その名の持ち主はその声に反応して振り返った。その瞬間、なつきの頬に何か暖かいものが触れた。
何が起こったか一瞬分からず、その温もりの残る頬に手を当てる。そして次の瞬間には顔を真っ赤にした。

「ししし静留!!お前また…!!!」

怒ろうとするが、静留は陽だまりのような優しい笑みを浮かべて言った。

「あんじょう気張りよし」

何故か頬の熱さが消えて冷静になれた。なつきは遥の待っている場所に行った。成程一様戦えるほどの場所は開けていた。

「審判はこの菊川雪之が務めます。ご両人、相違ないですか?」

二人はほぼ同時に頷いた。

「では始めます」

二人はお互いに礼をし、木刀を構えた。

「始め!!」

合図と共に、遥が振りかぶって面を打ってきた。なつきはそれを受ける。だが、遥の馬鹿力でどんどん押されてしまう。
なつきは咄嗟に刀の柄の方だけを上に持ち上げた。すると、上手く力を殺げたらしく、遥は自分の力を支えきれずに、なつきの刀に沿って刀が地面に刺さった。なつきはすかさず刀を構えなおし、首元へと打ち込もうとした。だが、それはまた逆の形で抑えられる。なつきはすぐさま間合いを取った。

「力だけかと思ったら…結構やるじゃないか」

「アンタも…そんな軟そうな身体でやるじゃない」

いつの間にか周りから声が聞こえなくなっていたが、本当に静かなのか集中しているからなのかは分からなかった。

互いの隙がなくいつまでも打ち込めずに二人は睨みあった。

このままでは埒が明かない。

そう思ったなつきは行動に出た。少し大きめの動きで一歩前に出る。遥はそれにすぐ反応し、最小限の振りに抑えて袈裟懸けに斬ってきた。なつきはその一歩が地に着く前に、軸にした足で刀がぎりぎり届かないくらい後方に飛んだ。

そして、前面ががら空きになったところで喉元に向かって刀を伸ばした。勿論遥が間に合うはずもない。

「………一本!!!」

なつきは喉元数寸の場所で木刀を止めていた。辺りから一気に歓声が起きる。
二人は木刀を腰に収め、再び礼をした。

「負けたわ…」

「いや、お前も良い太刀筋だった。また手合わせしてくれ」

二人が握手すると、歓声は更に強くなった。

「なつきぃ~」

振り向く前に静留はなつきに飛び掛るようにして抱きついた。

「うわっ!?お前…人前でこんなことして…!!」

「せやったら、人前やなかったらええの?」

「よくない!!」

なつきは思いっきり静留を引き剥がした。

「あん、いけずぅ~」

「何言ってるんだお前は!!」

怒られているのに静留はころころと笑った。その後ろから、さっきの赤髪の、自分と同じような緑色の瞳を持った少女が来るのが見えた。なつきはそちらもそちらに向かった。

「…何だ?」

目の前で止まったその少女に、唸るように声を発した。

「あんた…結構やるじゃない」

また尖った言葉が来るかと思って身構えていたのにもかかわらず、彼女の口から出てきたのは彼女らしい褒め言葉だった。

「まあな」

「そのくらい強いんだったら静留を任せても大丈夫ね」

「ああ」

力強く頷いた。

「静留のこと、よろしく頼んだわよ」

その言葉でなつきの中の少女の印象が変わった。

「当たり前だ」

今度が棘のない言葉がなつきの口を開いた。すると、その少女はなつきにさらに近づき、耳元で、誰にも聞こえないように言った。

「静留って結構弱いから…ちゃんと守んのよ」

そう言ってからすぐ離れると、少女は身を翻した。

「あ、そうそう」

数歩離れた所で、立ち止まった。そして顔だけをこちらに向けた。

「私の名前は奈緒!結城奈緒よ!!」

そう言って、その赤髪の少女―奈緒はその場から去っていった。

「なつき、何話したん?」

奈緒の背を見送っているなつきに、静留が問うた。

「内緒だ」

なつきは振り返ると穏やかな笑顔を見せた。静留は一瞬、我を忘れてその笑顔に魅入ってしまった。

「どうした?」

なつきは怪訝な顔をして静留を見た。

「な、何でもあらへんよ。…奈緒、うちに何も言わんと帰ってしまいはって」

「ああ、別に静留に会いに来たわけじゃないからな」

話を急に変えられて不審に思ったが、なつきはそのままその会話に乗った。

「?そうなん?」

「ああ」

奈緒が去っていった方向を見ながら、なつきは清々しいでそちらを見ていた。
静留もつられてそちらを見る。

門のそばにある大きな桜の木が少しばかり花の色を見せていた。



続く

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