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第十章 無自覚
 
 
 
ソール――フェイト――がいなくなってから、すでに一週間が過ぎた。
 
私の報告を受けてソールの捜索隊まで作られているし、町の巡回も強化された。
自分で言うのも何だが、S+ランクエクソシストが何も出来ずに帰ってきたのだから当たり前の対応だろう。
四日前、ソールを攫ったと思わしきバンパイアをシャマルさん達が見つけた。逃がしてしまったらしいけど…。
 
私は自室でため息をついた。血を吸われたことははやてちゃんにしか話していない。
だが、誰に吸われたかは話していなかった。
 
「……フェイト」
 
その名前を、噛みしめるようにそっと呟く。
彼女の名前も誰にも言っていなかった。教会の皆を裏切っていることになるのかもしれない。
でも、彼女の苦しそうな、悲しそうな瞳を思い出すと、何故か言えなかった。
 
それと同時に、あの獲物を狙う獣のような眼を思い出す。あの瞳で見られると、何かに絡められたように身動きがとれなくなる。
 
それに…すごく、気持ちよかった。
 
あんな思いができるなら、スレイブになった人がバンパイアに従うのも分かる気がする。
窓を開ける。夜空はどんよりとした雲で覆われ、微かに月の光だけが漏れだしていた。
 
「もう会えないのかな…」
 
会えても敵同士…か。
私はそのまま窓辺でうずくまると、顔を膝に埋めたまま、もう一つ嘆息した。
 
「……フェイト」
 
もう一度、その名を呟いた。
 
「……その名前を軽々しく呼ばないでほしいんだけど」
 
ふと答えた声に身構える。
 
「誰!?」
 
ベッドに誰かが座っている。紅い瞳が私を見つめていた。驚きで動けないでいる私に彼女が近づいた。彼女が私に合わせて屈む。
 
「夜に窓を開けるなんて…不用心だよ?」
 
それは普通の家だったらだ。ここは教会。町全体を覆っている広域結界を護るために教会には更に強い結界が張ってある。並大抵の魔物では中に入れないし、たとえ強い魔力を持っていても、入った瞬間に見つかるはずだ。
 
魔力を纏っていれば…?
彼女から全く魔力を感じない。何故だ?
 
「私は…気功も使えるんだよ?気で魔力を覆うのって大変だからあんまりやりたくないんだけどね…。だから君の聖力でこの部屋に結界を張ってくれると嬉しいんだけど…」
 
「…何でここに来たの?」
 
「……結界張ってくれたら答えてあげるよ」
 
私は黙って聖霊円を出し、彼女の魔力が周りの結界に触れないように結界を張った。
 
「ありがとう…」
 
その瞬間。彼女の膨大な魔力が、部屋中に漂った。かなり上級のバンパイアだというのが身に染みて分かる。だが、今はそんなことどうでもいい。
 
「…何で?」
 
私は間髪入れずに再び質問した。
 
「君に会いたかったから…」
 
頬が熱くなるのが分かる。顎を優しく掴まれて、上を向かされる。顔が近い。
 
「もう一度会いたくなったから来たんだよ…?」
 
吐息がかかるくらい近くなって、後退ろうにも壁を背にしているので後がないことに気づく。
何でバンパイアは、こんなに話術に長けているのだろう。こっちが恥ずかしくなりそうだ。
でも、それは恥ずかしい科白を言われたからだけではないことに、私は気づかなかった。
 
「…嘘でしょ?」
 
その言葉に彼女はクスッと笑って立ち上がった。
 
「本当だよ…半分は。完璧な嘘より、少し真実を混ぜた方がより真実味が増すんだ」
 
こういう言葉に騙されてはいけないのだ。私は彼女から目を離さないように立ち上がって距離をとった。
 
「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ。君を殺したりしないから」
 
「何で…?」
 
そうだ。言いたいことが一つ一つ頭の中で再生されていく。
 
「何で…殺さなかったの?スレイブにしなかったの?そうしなければ、私は教会に戻ってあなたの名前を広めるとは思わなかったの?思ったから殺そうとしたんでしょ?」
 
それが一遍に口から出てきて、支離滅裂を極めた。でも、もっと言いたいことがある。
 
「……質問は一つずつにしてくれないかな?」
 
彼女は苦笑した。
 
「私も分からないよ。何故だろうね…。強いて言えば気まぐれかな?…それに……」
 
不意に身体に拘束感が生まれた。手をバインドで固定されている。…全然外れない。それに気を取られている間に彼女が私を抱き上げた。
 
ドサリと少し乱暴にベッドに下ろされた。これはこの間と同じだ。再び恐怖と…快楽への期待がわき上がる。
 
「…それに、君をスレイブにして血を不味くするのは勿体なかったから」
 
そう言って彼女は首筋に牙を立てた。
 
「くああっっ……!!」
 
こないだのような強い痛みはない。ただ凄まじい快楽が身体を駆けめぐる。
 
「いやぁっ、あっ…!!」
 
身体が跳ねる。だが、それは彼女に抑えられる。バインドが外れた。咄嗟に目をギュッと瞑り、彼女の背に腕を回して爪を立てた。
満足したのか彼女が口を離す。
 
「はっ…はぁっ…」
 
なのはは荒い呼吸を繰り返した。身体に力が入らない。目を開けるとフェイトが満足そうに笑っていた。
 
「ふぇい、と……」
 
私を抑えるためにのし掛かっていた彼女の身体が起き上がった。
力の入らない腕で、私は上体を起こした。
 
彼女の姿を探すと、既に窓辺に立っている。
 
「またね…。そうだな…今度は新月の夜にでも…」
 
「?」
 
「別に言ってもいいんだよ?でも、言わなくても良い。それは君の自由だ」
 
「…ちょっとまっ……!!」
 
言い終わる前に彼女の姿は蝙蝠に紛れて消えた。ヨロヨロと立ち上がり、窓辺に向かう。
 
もうそこには蝙蝠一匹いない。手持ち無沙汰になって空を見上げると、雲の切れ間から上弦の月が顔を出していた。



続く
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