第十五章 戦渦
「ここじゃないのか……」
私は吹き抜けになっている教会内部の書庫で、地図を見ながら落胆した。
封印所は教会の中ではない。第三教会の外れの方だ。
でも、これはすごい収穫だ。
「早く母さんに……」
「そこまでだ!!」
大声と共に二人の人間が入ってきた。
「シグナム…、ヴィータ…」
「ソール……なのだな…」
「はやてに聞いたの?」
ただ気絶させただけだから、そろそろ目が覚めているだろう。
「何でだ!!何でこんなことしやがった!?」
静と動の怒りを向けられる。私はゆっくりと彼女たちの前に出た。
生憎、今アルフとは別行動だ。二人相手は…かなりきついかもしれない。
「別に…私は何もしていないよ?」
「ふざけんな…!!」
私は魔力が二つ近づいてくるのを感じた。
「ふざけてないよ?そうだな…理由は彼らに聞いてもらえる?」
彼女たちも気づいたらしい。ハッとして後ろを振り向く。
「フェイトお嬢様…ここは私達にお任せを」
トーレとセッテだ。四人はにらみ合い、一斉に交戦し始めた。私はそれを見て、上に飛んだ。二人ともそれに気づくが、彼らに邪魔されて私のところにたどり着くことは出来ない。
「別に私は急いでないから…いいんだけどね」
下で戦っている四人を見ながら、そう呟いた。
報告は、横着だが念話で済ませればいい。
でも、戦わなくていいことに安堵した。このまま戦っていれば…彼女とも…。
私は頭を一度振って、母さんに念話を繋げる。
『母さん…封印所の場所が分かりました…』
最初は何も言わなかったが、説明し終わった後、
『良くやったわ…流石私の娘ね……』
一言、そう言ってくれた。
嬉しかった。
たとえ念話であろうと、母さんが褒めてくれた。
涙が出そうになるが、ここはまだ戦いの場だ。それにプライドが許さない。
『そのままスカリエッティを手伝いなさい。封印所には母さんが行くわ』
『……は、い…』
本当はこのまま帰ってしまいたかった。でも、母さんがそう言うのだから…母さんが笑ってくれるのなら……。
でも、彼女はどうなんだろう?
泣いてしまうんだろうか?苦しむんだろうか…?
……そんなこと、させたくない。
私は考える前に、窓を突き破って外に出た。
すでに教会に点々と炎が上がっていた。
ガジェットと呼んでいたスカリエッティのオモチャや、人間に反感を持っているスレイブ、バンパイアもエクソシスト達と戦っている。
私の目は無意識に彼女の姿を探していた。
それは巨大な桃色の砲撃で程なく見つかる。
でも、なんて声をかければいいのか分からなかった。
そのまま空で立ち往生していると、エクソシスト達に見つかり、四方八方から砲撃が発射された。だが、今の彼女の砲撃を見たら、それはまるでオモチャの鉄砲だ。目を瞑ってでも避けられそうである。
私が旋回してそのエクソシスト達の群れを抜けると、不意に橙色の誘導弾が複数私に向かってきた。今までの砲撃より精密で、無駄がない。いつまでも追ってくるそれにいらだちを感じ、アークセイバーで打ち落とした。
「ディバイン…バスタァアアアア!!!」
いつの間に来たのか私の横から声がした。そちらに振り向くと、蒼い道が私に繋がるように形成されていた。そこから蒼い光が放たれる。
《Round Shield》
私はシールドを張ってそれをやり過ごした。
《Sonic Move》
そして、その砲撃を撃った彼女の後ろに回った。
「前より…断然上手くなってるね、スバル」
それが素直な感想だった。人間の人生は短いが、成長も早い。たった二、三ヶ月の間にこれだけ出来るようになったのだ。
彼らは生きているんだと実感させられる。
「…!?何で、私の名前を…!?」
驚いて目を見開く彼女に、にっこりと笑う。
「だって…この間まで一緒にいたでしょ?」
「も、もしかして……」
「……そうだよ」
再び砲撃が私を狙ってきた。それを上に飛んで避ける。
「スバル!!なに敵のバンパイアと話なんかしてるの!?」
ティアナが下から叫んでいた。
「だ、だって…!!」
二人がいるのなら、あの幼い二人もいるのだろうか。
「…ブラストレイ!!」
今度は炎が私の横を掠めた。探す必要もなかったな…。
私はゆっくりと地上に降りた。
「御両人…お久しぶり、とでも言っておこうか?」
ティアナとキャロも驚きを隠せずに私を凝視していた。だが、いつまでも呆けている場合ではないことに気づき、ティアナはクロスミラージュを構えた。
「…はやて総司教から聞いています!!」
「ふうん…それではやては私のことなんて言ったの?殺せって?」
「…生きたまま連れて来いと言っていました!!」
スバルがウイングロードから地上に降りてきて、そう言った。
「…それは無理だよ?」
私はバルディッシュを構えた。
「君たちじゃ…私に勝てない…」
そう言って、私は辺りを見回した。足りないもう一人を捜すために。赤い髪の少年が、教会の屋根の上から私を見下ろしていた。
「…君もおいで。まとめて相手してあげるよ」
彼はストラーダのブーストを上に噴射させ、降りてきた。
四人がそれぞれ私に向かってデバイスを構える。
「それにもう一つ訂正すると…私は生きていないよ?」
それに何を汲み取ったか知らないが、四人の動きが止まった。私はそれを嘲笑するように顔を歪めた。
「ほら、早くしないと…君たちも死んじゃうよ?」
一度距離をとって、フォトンランサーで牽制する。
四人は四方に散った。良い動きだ。
私はバルディッシュを両手で持ち、構え直す。
『フェイトお嬢様ぁ』
念話が来た。
『何?クワットロ』
『そんな子供達と遊ばなくてもよろしいんですよぉ?私達で片付けておきますわ』
どこから見ているのだろう?いつものような間の延びた話し方に、警戒する。こいつは基本的に信用ならない。
『私も少し楽しみたいんだ…。手は出さないでね』
『…はぁい♪』
こう言っておけば、誰も手出ししないはずだ。そうすれば彼らが傷つくことはない。私も傷つけなくて済む。返事の前の間が少し気になるが。
「どっからでもどうぞ…」
私は彼女がいた方を一度見て、自嘲するように笑った。
続く
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