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第七章

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第七章 束の間
 
 
 
今日は久しぶりに午後から休みを取った。普段から働き過ぎだと皆に言われているので、驚かれはしたが快く休ませてくれた。むしろ丸一日休んだらと言われたくらい。今日休んだのは、あの子が一緒に出かけたいと珍しくお願いしてきたからだ。
 
「すみません。お待たせしてしまって」
 
「大丈夫だよ、ソール」
 
駆けてきたソールに笑いかけた。
 
「今日はどこに行きたいの?」
 
「えと…その…私、あんまり出かけたことないからそういうのよく分からないので…連れていってもらえると…嬉しいです…」
 
「それなら私じゃなくてスバル達の方が良かったんじゃない?」
 
「いえ…なのはさんの行くところに行ってみたいんです」
 
勿論、これは夜になるまでの時間稼ぎだ。夜になれば、久しぶりに喉が潤されると思うと、自然に笑みが浮かぶ。あえて今日は薬を一錠しか飲まなかった。
 
「そう…?じゃあ行こうか?」
 
少し不思議そうな顔をしたあと、すぐに笑顔に戻り、なのははフェイトの手をひいて出掛けていった。
 
 
二人は町で主にウインドウショッピングなどで時間をつぶすように遊んだ。店はきっと私くらいの子供に合わせているのだろう、おもちゃ屋や、子供の服も店などだ。アイスを食べたりもした。
 
そんな間に簡単に夜は訪れた。
 
「あの…なのはさん」
 
「ん、何?」
 
「お腹…すきませんか?」
 
「あ、ああ。そういえば。今日は外で食べようか?何が食べたい?」
 
「え、えと…よく分からないんですけど…」
 
「う~ん、じゃあ普通にレストランでも行こうか?」
 
「はい!!」
 
二人はレストラン街を数分歩いて、何軒目かのある程度落ち着いた店に決めた。
 
「これ、おいしいね。何て言うの?」
 
「子羊のディアボラ風です」
 
「あ、私のスパゲッティ食べる?」
 
「はい、いただきます。…これもおいしいですね」
 
「でしょ?初めてきた店だけど、当たりだったね」
 
彼女が微笑んだ。
 
彼女が笑うと何故か心が躍る。不思議な気分だった。
 
「ちょっと…」
 
彼女はそう言って席を立った。トイレだろう。彼女の背に私は笑みをこぼした。
周りを一応確認してから、彼女のワインに用意していた薬を入れる。誰も気づいていない。自分たちの食事に集中している。
少しして彼女が戻ってきた。
 
「ごめんね」
 
「いえ、それよりもデザートどうします?」
 
「えっ!?何があるの?」
 
嬉しそうにメニューを眺める彼女を私は横目で見ていた。
 
「ソールは何にしたの?」
 
「私はババロアです」
 
「う~ん、じゃあティラミスにしようかな?」
 
注文してから数分後、デザートが運ばれてくる。
 
「おいしいね♪」
 
「はい」
 
彼女が薬の入ったワインを飲んだ。私は心の中でほくそ笑んだ。
 
「ソール。はい、あ~ん」
 
彼女がフォークでティラミスを差し出した。これは…。
顔が熱くなる。
 
「あ~ん」
 
再度言われる。私はおずおずとそれに口をつけた。
 
「おいしいでしょ?」
 
「…はい」
 
これは…私もやった方が良いのだろうか?
少し疑問に思いながらも、フェイトは自分のババロアをスプーンで掬った。
 
「はい、どうぞ」
 
「こういう時は、『はい、あ~ん』ってやらなきゃ」
 
彼女の頬は少し赤くなり、目からいつもの活発そうな力は抜けている。
 
……そうか、酔ってるのか。
 
そう思うと、純粋に笑みがこぼれた。
 
「はい、あ~ん」
 
気恥ずかしくて、声が小さくなる。でも彼女は満足したらしく、あ~んと言いながらそれを食べた。
デザートを食べ終えて少しした後、私たちは店を出た。
 
「う~、寒いねぇ」
 
寒さで酔いが覚めたのか、さっきの甘ったれた声ではなくなっていた。
 
「そうですね…」
 
「遅くなっちゃったし、そろそろ帰ろうか?」
 
「はい」
 
彼女が先に数歩踏み出した。そして、振り返る。と同時に崩れ落ちそうになった。
 
「え?何…?」
 
自分の身体に起きていることが理解できないのか身体を震わせている。
 
「大丈夫ですか!?」
 
「何か身体が痺れて…動かな…それに…ねむ…い……」
 
心で喜びに満たされながら、心配そうに声をかける。彼女はそのうちに眠ってしまった。
 
やっと……。
 
私は表情を顔に出して微笑んだ。



続く

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