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フェイト、リンディ、その他大勢(うたわれるもの風に)
シリアス

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************

 

 

――――――本当に使えない子ね


嫌だ


――――――あなたはアリシアの代わりのただのお人形


何でもするから


――――――作り物は所詮作り物。本物の代わりにはなれない。


嫌いにならないで


――――――あなたなんか、もう要らない。


「!?」

嫌な汗と共に、フェイトは目を覚ました。手が、身体が、まだ震えているのが自分でも分かった。
見渡すと、そこは自分の部屋。当たり前だ。いつものように学校から帰って、アースラへ行って。
丁度仕事がなかったので、宿題なりなんなりをして早めに寝たのだから。

今日は休日。でも、母さん達は仕事だ。

ふと、時計を見ると、まだ5時を指していた。もう一眠りできそうだが、これ以上寝ると逆に寝過ごすかも知れない。


それに、またあんな夢を見たくなかった。


ハラオウン家に養子に来てから、もう母さんと恥ずかしがらないで呼べるくらいの月日は経った。
もう、傷は癒えているはずだった。
でも、急にこんな夢を見て…やっぱりそう簡単には割り切れないものなんだ、とフェイトは自嘲した。それと同時に何故か腹立たしかった。だからと言って、誰かにぶつけられる筈もなかった。

とりあえず顔を洗おうと、フェイトは洗面所に向かった。その途中、リビングから物音がする。フェイトがそちらに向かうと、リンディがキッチンで朝食を作っていた。気配に気づいたのか、振り返る。そしてフェイトを見て、いつものような笑顔を見せた。

「あら。おはよう、フェイト。今日は早いのね。いつもお寝坊さんなのに」

「…おはようございます」

何故かムカッと来た。本当はそんなことないはずなのに。いつもの朝と同じなのに。自己嫌悪を感じて余計にイライラしてくる。

「どうしたの?」

不思議そうにフェイトを見ているリンディ。

「何でもない…です……」

これ以上いらだちを隠せなくて、フェイトは小走りで洗面所に向かった。水を被るように顔にかける。冷たい水の感触にさっぱりはしたが、やはり胸の中では何かが燻っていた。
何か可笑しい。そう自分で感じて部屋で一人でいた方が良いという結論に至った。だが、戻る途中のリビングで、

「おっはよう~♪フェイトちゃん」

「おはよう、フェイト」

「おはよ~」

エイミイが母さんを手伝っていて、クロノとアルフがすでに席に着いていた。もうすぐ朝食が出来るのだろう。
そう思ったと同時に、

「もうすぐご飯だから、座って待っててね」

母さんからそう声が掛かった。あまり座りたくなかった。でも、皆揃っていて自分だけ座らないのも何かと思う。私は渋々いつもの席に座った。

「どうしたんだい?フェイト」

隣りでアルフが先程の母さんのように不思議そうに見つめてきている。

「…なんでもないよ」

少し語尾が強くなってしまったような気がする。でも、そうかい、とアルフは言ったっきり何も言わなかった。

「さあ、出来たわよ~」

朝は至ってシンプルに味噌汁とご飯と目玉焼きだった。昨日はパンだったから今日は和食というのも納得できる。用意が終わると、二人も席に着いた。

「「「「「いただきます」」」」」

お茶碗を持ったものの、箸が進まない。お腹が減ってない訳じゃない。でも何故かムカムカする。

「フェイトちゃん…どうかしたの?」

エイミイが心配そうに声をかけてきた。その言葉をきっかけに私の中にたまっていたイライラが破裂した。

「…何でもないって言ってるでしょ!?」

テーブルにダンッという音を立てて乱暴に手をついた。途端に、自分の味噌汁が零れた。

「…フェイト!!」

母さんが私を睨み付けていた。

怒っているんだ。

当たり前だ。悪いことをしたんだから。

 

不意に、


夢の光景が蘇った。

 

怖くなって私は自分の部屋に駆けだした。皆が私の名前を呼んでいたけど、そんなの気にしている余裕なんか無かった。
私は部屋に行ってベッドに飛び込むと、頭から毛布を被った。
その毛布に包まれて、今更ながらに自分のやったことを後悔した。嫌われたかもしれない。そう思うと目尻に涙が浮かんだ。

――――――コンコン

ドアを叩く音がする。何も言えずにいると、ドアが開いた。誰かがこちらに向かってくる。私の目の前で、その人は止まった。

「フェイト……」

……母さんだ。よりによって一番来て欲しくない人。

「フェイト…なん……どうしたの?」

怒っているような、心配しているような声。フェイトは毛布を被ったまま、恐怖に震えた。

「…ごめんなさい!!」

「!?」

「ごめんなさい、ごめっ…んなさい、ごめんなさっ、い…ごめっ…なさっ…」

嗚咽で上手く声が出ない。でも、嫌われたくない。その一心でフェイトは謝り続けた。

「フェイト…」

静かな声に、フェイトの謝罪も止まった。ベッドが揺れて、毛布が少し捲られる。泣きぬらした目と微笑みを湛えた目がぶつかった。

「……フェイト」

毛布に包まれたままフェイトは抱き上げられ、リンディの膝の上に座る形になった。そのまま赤ん坊のように抱きしめられ、背をさすられる。

「大丈夫よ…何も…怖いことなんてないから…」

涙がまたこみ上げてきた。

「ふぇっ…ごめんっ…なさっ…」

フェイトもリンディに抱きつく。リンディは安心させるようにぽんぽんと背を軽く叩いてあげる。

「大丈夫…フェイトはなんにも悪くないわ…。母さんはフェイトのこと…大好きよ…愛してる……良い子良い子……ね?」

母親に包まれている感触が心地よくて、嬉しくて。また違う涙が溢れてきた。

…そうか、甘えたかったんだ。

母さんがくれる無償の愛が欲しかった。
ただ抱きしめて、良い子だって言って欲しかった。

「おかあっ、さん…っかあさん…ううっ…」

こんなにも暖かくて。こんなにも気持ちよくて。

皆がこの温もりを知っていたということに、嫉妬した。

「…大丈夫?」

今度は訪ねるような声。

「…うん」

そう言って上目遣いで母の顔を伺った。しかし、リンディは優しく微笑むだけだった。

「…今日は、フェイトの我が侭なんでも聞いてあげる」

それを聞いて喜びと同時に理性も働いてしまう。

「え、でも…」

「大事な娘の為なら、一日くらい休んだってどうってことないわ」

「でも……」

「我が侭…言って良いのよ?」

茶目っ気たっぷりに言う母が面白くて、嬉しくて、そして少し気恥ずかしくて、フェイトはもう一度リンディの胸に顔を埋め、一度頷いた。

 

Fin.


いや、何かこういう親子ものってなかったような気がしたんです(知らないだけかもしれないのであったら教えて
子供なんだから、何故かよく分からないけどムシャクシャする日ってあると思う。

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