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「…何やってるの?」
「……」
だが、その返答はない。相当集中しているのだろう。
「はやて…」
「いたっ!?」
足にひもをもつれさせ、はやては転んだ。
「だ、大丈夫!?」
「ふぇ、フェイトちゃん!?」
フェイトが目の前まで駆けてきて、ようやくフェイトの存在に気づいた。
はやてにとっては人生最大と言ってもいい汚点だろう。
「なんや…おったんやったら声かけてくれればええのに…」
恥ずかしいところを見られたと俯き、自分の足下を見た。
「なんで…なわとび?」
小学生の頃ならいくらでもやったが。中三になってなわとびとは…。
「いや、昔よりは良くなったんやけど、それでも体力とか、足腰の筋力とか弱いから…ちょっと練習にと…」
二重跳びがどうしてもできへんのや~、と拗ねるはやてを見て、フェイトは苦笑した。
ふと思いついて、自分の服装を見る。四時間目の体育の後、そのまま遊んでいたので服はジャージのままだった。
「ちょっと、それ貸して?」
フェイトはなわに手を伸ばす。はやてはそれを素直に渡した。
フェイトはそれを手に取り、徐に飛び始めた。
初めは普通に、そして二重跳び、はやぶさ、そして
「何でそんなん飛べるん!?」
「慣れ、れば、何とかっ!!」
三重跳びをしながらフェイトは答えた。さすが雷光の異名を持つだけある(関係ないような気がしないでもない)。
「コツは!?」
フェイトが一度止まる。
「う~ん、足腰の反射と持久力も必要だけど…腕の筋力とか…あとはタイミングかなぁ」
「かなぁって…」
流石運動神経が良いだけある。きっと感覚で跳んでいるのだろう。
何だか悔しくて、はやてはフェイトからなわを奪うと、もう一度構えて跳び始めた。だが、先程沢山跳んだ所為で、足にあまり力が入らない。
「危ないっ…!」
初めはその様子をオロオロと見ていたフェイトが、転びそうになったはやてを抱き上げた。
「ふぇ、フェイトちゃん!大丈夫?」
「はやての方こそ大丈夫?」
フェイトはそう言ってはやてを校舎の階段のところに下ろした。
そして、不意にフェイトの手が太ももに触れた。
「なっ…!?」
訳の分からない行動に目を丸くしたはやて。フェイトはそんなこと気にもとめず、はやての太ももを揉み始めた。
「こんなに固くなるまで跳んで…明日、筋肉痛になっちゃうよ?」
どうやら、フェイトはそうならないようにもみほぐそうとしているらしい。
だが、
「やぁ…っ!」
擽ったさと気持ちよさが一緒に来てしまい、変な声を上げてしまった。
「あっ!ご、ごめん!!」
それで気づいたのか、フェイトはパッと手を離した。はやてははやてで、真っ赤な顔を両手で押さえている。
気まずい沈黙。でも、それを打破できるほど二人の思考は冷静でなかった。しかし、
―――――キーンコーンカーンコーン
「あ、昼休み終わっちゃった!!」
フェイトは立ち上がった。
早く着替えなければならない、という口実を作って、すぐさまここから離れたかった。
それじゃ、と言って立ち去ろうとする。フェイトの袖を、はやてが引っ張った。
「は、やて?」
振り向くが、俯いた顔からは何も伺えない。
フェイトははやてに合わせて屈むと、視線を追った。だが、それは何かを言おうとして彷徨っていた。
「あの…」
やっと言う決心がついたのか、はやては顔を上げた。
「あの…足が…疲れて動かへんねん」
「?」
言わんとすることが分からずに首を傾げる。はやてはそのまま続けた。
「だから…ここから動けへん。やから…」
段々何をして欲しいのか分かってきて、フェイトは頬を緩ませた。
甘えているのだ、これは。
そうとなれば話は早い。
「はやて…ちょっと揺れるよ?」
そう言って、彼女の背と両膝の間に腕を潜り込ませ、そのまま抱き上げる。
「え!?や、フェイトちゃん!!」
お姫様抱っこは予想していなかったのか、はやては顔を真っ赤にしていた。
「いいからいいから…そのままでいてください、お姫様」
そう言って頬に軽いキスを贈る。
とりあえず更衣室に行くか、保健室か、それとも屋上なんていいなぁ、と次の時間はさぼる気満々のフェイトだった。
Fin.
玄関にある縄跳びで思いついた(安直