「なのはさん!」
何かが耳に入ってきた。
でも、それを理解しようとは思えない。
必死に誰かが叫んでいるのを、ただ呆然と聞いていた。目に映していた。
別の誰かが、フェイトちゃんの上に倒れていた鉄柱が切断し、どかす。
担架が運ばれてきて、彼女はそこに乗せられた。
私は誰かに腕を引かれて、その場からよろよろと立ち上がった。
彼女が前を先行し、それを眺めていたら、いつの間にか外にいた。
何もない世界かと思いきや、遠くに遺跡が見える。人がいるのか、はたまたいたのか。
「何でです!?」
端末の画面に誰かが浮かび上がり、私を連れてきたその人が口論している。
涙声、否、泣いていた。
通信が切れる。
近づいてきた。
「なのはさん」
よく知った声。なのに、遠くに感じた。
「フェイトさんは…向こうに連れて行けません……」
彼女の名前が出てきて、急に思考が開ける。
何が起きているのかよく分からない。向こうに連れて行く、の意味すら。
「ティア…ナ…」
目の前にいるその人の名前を呟く。
「フェイト隊長は…スプールスに入れないんです」
「なんで…?」
「フェイトさんは…特殊部隊の隊長です。軍の機密事項も伝わっているはず…。…だからっ…例え、死体でも引き受けられないと……向こうは言っています」
ポロポロと、滴が乾いた地面に吸い込まれていくのを見ていた。
彼女は知らなかったのだろうか。いや、知っていたはずだ。
最初から。
絶望や後悔も、心に穴が空いた状態では何も思い浮かばない。
足腰が言うことを聞かなくなって、そのままそこに尻餅をついた。
血液が身体を巡らなくなったような感じ。
頭が朦朧として、
暗転。
************
私がまた目覚めると、今度は医務室だった。
何故かすっきりとした目覚めに違和感を覚える。頭も身体も冴えているのに、まるで自分の物ではないようだ。
私を見つめている人影がぼんやりと見えた。
「フェイトちゃん…?」
「起きましたか?」
そう言った声は、全く違うものだった。
「ティアナ…」
手をついて身体を起こす。
私は、今度はどれくらい眠っていたのだろう。
「ほんの少しですよ……」
察したのか、そう彼女が言った。
「すみません…」
そして、何故か謝られる。
でも、理由は分かっていた。
「ティアナの所為じゃないよ。フェイトちゃんが、知ってて言わなかっただけなんだから…」
もう、涙も出ない。
あの時、激しい絶望が私を襲ったはずなのに。
「一応、これだけは内緒で持ってきました…」
そう言って私に手渡したのは、あの蒼い宝石だった。
「フェイトちゃん…」
苦しくないと、悲しくないと言えば嘘になる。
でも、空白が出来たはずの心は、温かかった。
ギュッと、それを握りしめる。
冷たいはずのそれに温もりがあったのは、ティアナが持っていたからなのだろうか?
分からないけれど、何故か安心できた。
「フェイトちゃん…今、どこにいるの?」
ちゃんと伝えに行かなきゃ。
「先程行った世界ですが…」
私の気持ちを
「そう…。じゃあ、もう一度行かせてもらえるかな?」
そして
私のこれからを
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三度目の茶色い大地は、同じように無機質だった。
でも、空は晴れ渡っている。
「フェイトちゃん…」
木陰には掘り返されたあとの真新しい土。
少し、盛り上がっていて、小さな石と花が置かれていた。
「約束、だからね…」
そっと、赤い宝玉を置いた。
「平和な世界で、待ってるから」
その小さな石に、軽く口付ける。
「愛してるよ……」
立ち上がり、背を向ける。
もう、振り返らなくても良い。
だって、あなたは来てくれるから。
神様、
どうか、また
一緒に
首元の蒼い宝石が、キラリと光って、熱を持った。
『私、高町なのは。あなたの名前は?』
『フェイト・テスタロッサ……』
いつかまた
巡り会わせてください
Fin.