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第八章

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第八章 悲しい享楽
 
 
 
起きた瞬間、目に知らない天井が入ってきた。周りを見回しても知らない部屋が目に映る。急いで身体を動かそうとするが、痺れて動かない。
何が起きたんだろう。
思考も鈍くなって、考えることが億劫だ。
 
「……起きたの?」
 
意識が落ちる前に最後まで一緒にいた彼女が、椅子に座っている。
紅い瞳が暗い部屋で浮いていた。
 
「そお…る…これ…?」
 
ゆっくりとした動きで彼女が近づいてくる。そのまま私に覆い被さった。
 
そして気づいた。
 
「ソール…まさ…か…」
 
フッと、口が笑った。
 
「最近…ずっと教会にいたでしょ?」
 
「あなた……!!」
 
信じたくなかった。けど、彼女から漏れ出す強大な魔力がそれを否定している。
 
「だから…全然飲んでなくて…」
 
彼女は私の言葉を無視して続ける。突き飛ばそうにも身体が動かない。聖力も錬れない。そうしている間にも、私の服をボタンをゆっくりと外してく。
 
「すごい…喉乾いてるんだ」
 
弧を描いた口から、牙が見える。三つほど外したところで、彼女の指が私の首筋を撫でた。
 
「うあっ…」
 
妙なくすぐったさと恐怖に声が漏れる。それを聞いて彼女はますます嗜虐的な笑みを深めた。
 
「怖いの…?」
 
「ち、違っ…!!」
 
「そうなんだ…」
 
そう言って、彼女が首筋に顔を近づけた。
 
「嫌っ!!…いやぁっ…!!」
 
何も出来ない、どうなるか分からないという未知の恐怖に泣きそうになる。
だが、彼女はそのまま首筋を嘗めた。
 
「ひゃうっ…!」
 
「フフッ…涙が出てるけど?」
 
彼女は、私の目尻にたまった涙をそっと手で拭った。
 
「な、なんで…こんなことっ…!!」
 
「……答えると思ってる?」
 
一瞬、その紅い眼に、初めてあったときのような何か悲しい影が見えたような気がした。
彼女の動きが止まる。
 
「…ソール?」
 
「…何で、そんな悲しそうな目をする?」
 
顔を歪ませて聞いてきた。
 
「あなたが…悲しそうだから……」
 
なのはは素直にそう言った。なのはは続けて言う。
 
「何で…こんなことするの?」
 
フェイトは嘲笑った。
心では自分でも分からない感情を彼女に言い当てられたことに動揺していた。
だが、それを表に出すわけにはいかない。
 
「君…馬鹿じゃない?」
 
「っ…!だってあなたが優しい子だって…知ってるよ?」
 
なのはは何故か諦めきれなかった。
彼女に心を開いて欲しかった。
 
でも、彼女は無言で私を見つめた。
 
「…最初は痛いけど、すぐ気持ち良くなるらしいから……安心してね」
 
彼女は話すのが億劫になったのか、そう告げた。
 
再度首筋に彼女が顔を近づける。
 
牙が、
 
私に食い込んだ。
 
「!?くあっ…!!??」
 
噛みつかれた瞬間の激しい痛み。でもそれはすぐに消え、身体の奥から快感がわき上がってきた。身体が熱い。
 
「ふっ…!!あっ、ああっ…!!」
 
懸命に抗おうと押し返すがビクともしない。
 
数秒が、何時間にも感じられた。
 
意識が飛びそうになったその時、彼女がようやっと顔を上げた。
 
「すごく…おいしかったよ……?」
 
恍惚とした表情で顔を上げた彼女の口の端から、血が一筋垂れていた。
 
「うっ…」
 
それを彼女が指で掬い、嘗めるのを見て自然と涙が零れた。
もう教会には帰れない。スレイブになってしまったらその人間をスレイブにしたバンパイアが解放しない限り絶対服従だ。
 
「泣かないで……」
 
こんな状態で笑えるはずがない。そう思いながら彼女を睨もうと目を開ける。だが彼女は、私が思う以上に悲愴な顔をしていた。
 
何で…?
 
私の疑問もそのまま、彼女が私の上から降りた。私はそれを横目で見ている。
彼女が一度蝙蝠に包まれ、それが捌けると同時に彼女の姿は変わっていた。
 
それはあの時の……
 
「この姿に戻るの…久しぶりだな」
 
そう呟いて、背伸びをする。
 
「さあ…始めよう…」
 
彼女の下に六芒星の魔法陣が形成された。何かをブツブツと唱え始める。私の下にもその魔法陣が展開される。
 
「…フェイト」
 
ハッとした表情で彼女は私の方を見た。魔法陣が消える。
 
「……なん…で?」
 
「フェイト…だよね……?」
 
あの時、木を背にして倒れていた、私が助けた…あの人。
 
彼女がゆっくりと近づいてきた。
 
「見てたんだ…?」
 
フェイトは迂闊だったことに気づいた。
あの時、私があの狼だと彼女は気づいていたのだ。でも、それなら何故助けたのだろう?訳が分からない。
しかし、彼女を自分のものに出来ないことは分かった。
本当の名前を知られていては、服従の呪文がかけられない。呪い返しにあうのがオチだ。
だからと言って、このまま帰す訳にもいかなくなってしまった。
 
「知ってたの…?あの時の狼がバンパイアだって…」
 
もう一度彼女に近づき、私の顔の横に両手をついて低い声で尋ねる。
 
「何で助けたの…?」
 
「だって…怪我……してたから…」
 
「……君は本当に馬鹿じゃないのか?戦いで怪我をする以外なにがあるっていうんだ?君の仲間を何人も殺しているのかもしれないんだよ?」
 
実際、私はあの時何人もの人間を狩った。
私の剣幕に怯えたように彼女は身体を縮こませている。
 
……殺すしかないか…。
 
そうしなければ、私が教会に戻れない。…母さんの願いを、聞いてあげられない。
 
「本当は…君を私のものにしたかったんだけど…。名前を知られちゃ…服従もさせられないからね…」
 
そう言って、彼女の首に手をかけた。
 
「フェイ…ト……?」
 
力を込める。
 
「ぐ…あ…」
 
彼女が苦しそうにもがく。
胸の痛さに唇を噛む。
さっき泣いていた彼女を見たときと同じように、悲しくなった。
 
「ふぇ……と……」
 
彼女の意識が飛んだ。
 
もう少しで…彼女の温もりはなくなる。
 
動かなくなる…。
 
私は咄嗟に手を離していた。彼女の呼吸が再開される。
 
「…くっ……」
 
どうすればいいか分からない。早くしなければ夜が明けてしまう。皆が心配する。
 
……皆が…心配する。
 
そう…彼女のことを…。
 
「どうすれば……」
 
何故か胸が苦しい。
苦しくてしょうがなかった。
 
でも、この苦しさがなんなのか、私はまだ分かっていなかった。



続く

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