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今年も、バレンタインという日がやってきた。
行事を事前に気づいたのは、僕としてかなり珍しい方だと思う。
今年ももらえるんだろうか…?
それは勿論みちるのチョコであって、あの大量に送られたりしてくるチョコは別。可愛い女の子も好きだけどね。
何かなぁ…毎年もらうだけではつまらない。
たまにはあげてみようか。新鮮かもしれない。
「そうするか…」
はるかは悪戯っ子のように笑った。
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そして、当日の帰り道。
「大変ね、はるか」
「そう思うなら、君も手伝ってくれよ」
「あら、嫌よ。こうなるのが分かっているのに何も準備していなかったのはあなたでしょう?」
ちなみに、はるかの両手には大きな紙袋に…うん、言わなくても分かるだろう。
みちるも尊敬や敬愛の意味を込めて、友達や後輩、先輩からも沢山もらったらしいが、ちゃんと呼んでおいた迎えの車に全部積み込んだらしい。
はるかは大げさにため息をついた。
だが、これから起こる、否、起こすことを考えると何故か笑みがこぼれた。
「どうなさったの?」
「いや、別に」
「気になるじゃないの」
「いや、いいんだ。それよりさ、この後うちに来る?」
いきなり話を変えられて不満そうだったが、みちるはそのまま話に乗った。
「ええ、よくってよ」
「良かった。それじゃ、待ってるから」
そう言って、はるかは袋を抱えながら走っていった。
「慌ただしい人ね」
みちるは苦笑した。
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数時間後、みちるははるかの部屋に来て寛んでいた。
食事も終わったし、チョコも渡し終わり、もう特にすることはない。
みちるははるかの部屋に置いてあったピアノのCDを流しながら、今度のコンサートのスコアをチェックし始めた。
はるかははるかで何かしているようだ。
そわそわと何故か落ち着かないように見えるが、聞いたところで答えてもらえはしないだろう。
「みちる」
そのまま少し時間が経った後、はるかが不意に話しかけてきた。
「どうかしたの?」
みちるは後ろからやってきたはるかに振り向いた。
だが、いきなり目に飛び込んできたのははるかの整った顔だった。
そのまま口付けられて、思考が停止する。
何か、口の中が甘い…。
やっと解放してもらう頃には、みちるの息は上がって肩を上下させていた。
「な、なにを…?」
「ん、バレンタインだから。チョコ」
それを聞いてよく見ると、はるかは綺麗に粒の揃ったチョコの入っている箱を持っていた。
いつもと違う甘さを持っていたのはこれの所為か、と納得する。
「たまには僕からもあげようと思って…びっくりした?」
はるかはそう言ってにっこりと笑った。
全く…この人は。
みちるはため息をつきながら、それでも嬉しさを隠しきれずに頬を一度緩め、
「ええ、驚いたわ。だから…もっと頂戴?」
大人びた笑みではるかに向かって微笑んだ。
Fin.
はるみちはなんか熟年夫婦(でも未だにラブラブ)みたいな雰囲気。