目が覚めると、彼女の寝室だった。
飛び起きて一番に目に入ったのは、彼女の軍服。
滅多に着ないその黒い服は、だが、埃を被ることもなく綺麗に壁に掛けられていた。
隣にある。予備の戦闘服は、一般の隊員とは違い、やはり黒い。だが、色が褪せてしまい、少し灰色がかっていた。
「フェイト…ちゃん?」
彼女は、どこ?
背筋が冷たくなる。
ベッドから飛び起きると、少し足下がふらついた。
首元が鈍く痛い。
一度体勢を崩してしまいそうになるが、手をサイドテーブルについて、身体を安定させた。
「なのはさん?」
振り向くと、彼女の補佐であったあの子。
「フェイトちゃんは?」
それしか思いつかない。
こうべを垂れたティアナの表情は、分からない。
でも、それは……
「ここはどこなの?」
「………スプールスです」
やはり、反対すべきだった。この間みたいに、無理を言ってでも一緒に行こうとすべきだった。
折角保った体勢なのに、足に力が入らなくなって、蹲った。
「私…どのくらい眠ってた?」
「半日です」
まだ、着いたばかりという訳か。
嘆いていたって、何も始まらない。
約束したんだから
「私をさっきの世界まで転送して」
私は顔をあげてそう言った。
一つの世界なら、大きい転送装置があるはずだ。
それがあれば、さっきの場所まで一気に転送出来る。
「ですが…!!」
「お願いっ!私が直にお願いするから…っ!!」
どうしても、
どんなことをしても、
会いたいよ
愛しているあなたに
この言葉を
伝えなきゃ
************
結局、その場所に転送許可が下りたのは翌日だった。
そして、その時聞いたことに、胸が張り裂けそうになった。
私は転送されてからすぐに空を飛んだ。
だが、何も見えない。
砂が荒れ狂うように舞っている。
昨日は、そんな事無かったのに。
(なのはさん!!待ってください!!)
(ティアナは待ってて!!)
彼女には悪いが、じっとしていられる程、落ち着いていられる程私は大人ではなかった。
砂埃の中、それに混じって煙が見えたような気がした。
一直線にそちらに向かって飛ぶ。
お願いだから、無事でいて。
それしか、願えなかった。
近づくにつれて砂が止み、現れたのは、巨大な戦艦三つ。
二つは完全に大破していて、もう一つは主砲部分が完全に破壊され、あちこちから煙をあげて半壊していた。
「フェイトちゃん!!」
大声で叫ぶ。念話でも大声で話しかけた。
応答はない。
飛び回って周囲を探すが、人がまばらに落ちているのが確認できただけだった。
その中に、彼女は見つからない。
でも、そう簡単に諦められない。
主砲があったと思われる大きな焦げ穴から、壊れていない戦艦の中へ飛び込んだ。
最初の方に彼女から教わったフィールド魔法を展開して、自分の周りを包み込む。
壊れていないというのは、ただ原型が残っているという意味であり、内部は今にも崩れ落ちそうだった。
一体何が起きたというのだろう。
辺りを見回すと、人がポツポツと倒れていた。
人の焼けこげた臭いに、思わず鼻と口を手で覆った。
そして、血の臭いも。
いつの間にか、身体が蹲っていた。
意識が遠のきそうになる。
あの時の、ように
脳裏で、紅い瞳が悲しそうに私を見つめていた。
……気絶している暇なんて無い。
気を奮い立たせて、自分を取り囲んでいるピンクの膜に付加能力を付け加える。
たったそれだけの出来事なのに、全力で走ったときのように息が荒くなった。
(………は)
何かが頭の中に響いた。
周りの音が消えたような気がした。
(……のは)
少し、はっきりと。
私は走った。
彼女は、いる。
魔力を探すが、全く見あたらない。
まだ私には、弱い魔力は感知できない。このまま走り回って探すしかないのか。
扉を一つ通りすぎるとき、ガシャンッと何かが割れる音がして、立ち止まった。
Uターンしてそこの扉をこじ開ける。
そこで、私の目に飛び込んできたものは、
一面の、赤。
続く