「……何やってるの?」
ある意味いつも通りの情景に、意識せずともため息が出るものだ。
「あ、見つかっちゃいました?」
寝っ転がっていた彼女が上半身を起こした。
いつものように暢気な口ぶりだが、少々焦っている様子。
まあ、三日連続でサボっているところを見つかって焦らなかったら、それはそれで解雇ものだ。
「あなた……何回刺されたら懲りるの?」
私がサッとナイフを構える。と、彼女がギクッと肩を竦める。
「いやあ、何回やっても懲りないと言うことが分かってますから……それ、仕舞いません?」
随分な屁理屈に、頭を抱えたくなった。
とりあえず牽制で一本投げておく。彼女は大げさな声を出してそれを避けた。
「危ないですよ~」
ズボンに付いた土埃を軽く払い、苦笑する。
全く危機感がない。むしろ、子どもを窘める言い方だ。
本当に一発当ててやろうかしら。
そう思ってナイフをもう一本取り出そうとする。
「咲夜さん、ちょっと来てください」
だが、その手は彼女の声によって止められた。
再び草の上に座って、笑顔で手招きしている。
彼女の様子を観察するが、屈託のない笑みを浮かべたままだ。
よく分からないので、彼女の目の前まで歩を進めた。
「ほいっ」
「えっ?」
手を急に引かれ、受け答えするように間抜けな声を上げて、私は足を取られた。
驚いて反射的に目を瞑る。
柔らかい音がして、私は何かに受け止められた。
――何が起きたか分からず、されるがままになること数秒。
その何かが彼女自身であることに気づいた瞬間、身体が熱くなる。
いつの間にか、彼女の腕が私の背中に回っていた。
「な、何して……っ!!」
顔を上げて、すぐに後悔した。
血が頭に上って来ているのがよく分かる。
「……どうしたんですか?」
不思議そうに首を傾げている。
近い。顔がとっても近い。
だが、頭を再び下げようにも、彼女の綺麗な翡翠色の瞳から視線を外すことが出来ない。
そして再び寸刻。彼女の表情が一変、眉を下げてクスッと笑った。
「咲夜さん、顔真っ赤ですよ」
「……知らないわ」
やっとの事で視線を逸らす。
普段通りに振る舞おうとしているのが、馬鹿らしくなってきた。
彼女の前では、完全で瀟洒な従者としての私はなりを潜める。
「美鈴……」
彼女の腕の中で身体を反転、背を預けた。
「はい、なんでしょう?」
「こっちが聞きたいわ」
ああ、と曖昧な返事を返してくる。
お腹に回った手に力が入った。必然的に、身体は密着する。
「たまには咲夜さんも一緒にお昼寝はどうかな~と思いまして」
「……私は仕事があるのだけれど?」
「はい、だから先に逃がさないようにしました」
私の肩に頭をのせると、髪に顔を埋めて、子犬のように満足げに鼻を鳴らした。
温かい雰囲気に、自然と心も軽くなる。
「仕方ないわね……。今日だけよ?」
「小さい頃は、週に一回くらいはお昼寝してましたけどね~」
腰に巻き付いていた彼女の片腕を取って、その手のひらをなぞる。
私より一回りほど大きな手は、少し骨張っていて固かった。
「何年前の話よ」
「ほんの数年前ですよ?」
左手は回してある腕に重ねて、右手は今取った手に絡めたりして遊ぶ。
彼女も同じように私の手の感触を確かめる。
「人間にとっての数年前は大昔なの」
「それはそれは、知りませんでしたよ」
笑う。つられて私も笑う。
日射しが温かい。最近は外に出ていなかったし、出たとしても月明かりの下だった。
こうもぽかぽかしていると、眠くなるのも少し分かる気がする。
「あったかいですね~」
「そうね」
「……寝ますか?」
「ええ」
背中に力を入れると、彼女は簡単に倒れた。
そのままごろんと横になって、今度は自分から腕の中に収まる。
本当はブランケットでもあればいいのだろうが、面倒くさくて行く気になんかならない。
段々瞼が重くなってきた。……自分でも気づかないうちに、疲れが溜まっていたのだろうか。
「おやすみなさい、咲夜さん」
その声さえも遠く感じて、私は微睡みに溶け込んでいった。
暖かな昼下がり。
私と、あなたと。
Fin.
蛇の足
「おう!パチュリー。今日も貰っていくぜ!」
「……うちの猫イラズ達はいつも何やってるのかしら」
「今日は仲良くお寝んねしてるぜ、昼寝的な意味で」
「……咲夜も?」
「ああ」
「珍しいわね……」
「まあそうだな」
「あなたもたまには盗んでいかないで、家で大人しく寝ていなさいよ」
「借りてるだけだぜ」
「こんにちは、パチュリー。今日も借りたいんだけど…いいかしら?」
「あら、アリス。貸しても良いけど、一つ条件をつけるわ」
「……何?」
「一緒にお昼寝しましょう」
「は!?おい、お前何言ってるんだ?」
「……いいわ。じゃあ何か掛けるもの持って外に行きましょう。陽が暖かくて丁度良いわよ。
門番達も寝ていたし、一枚持っていってあげた方が良いかも」
「え?いいのかよ!」
「決まりね。小悪魔、ブランケット二枚持ってきて」
「いや、勝手に話すすめるなよ!放置すんなぁあああ!!」
三人で仲良くお昼寝しましたとさ。
終わらないので終われ
めーさくはセットで萌える。アリスは単品で萌える。
めーさくもっと流行ればいいよ!!!
どうでもいいけど人の手弄るのとか好きなんだがどうだろう。