いつ終わりを迎えるか分からない、この時代―トキ―で
私は伝えたい。
答えなんて要らないから
我が侭だとは思うけど
私を忘れないでいて欲しい。
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「フェイトちゃん」
「ん?」
いつもの様にマシュマロみたいにふんわりと相槌を打った彼女の顔には、この前から翳りがあった。
でも、それを追及することは、出来なかった。
いつの間にこんなに臆病になってしまったのだろう。
そう自分に問いかける以前に、答えは出ている。
あの時、
彼女は顔を背けた。
そして、そこには照れたような、困ったような表情が浮かんでいた。
期待は風船のように膨らむ。でも、それはいつ割れてもおかしくはない。
だから、私は風船の紐を手に結わえ付けたくはなかったのだ。
「なのは?」
呼びかけてから何も言わない私を訝しく思ったのだろうか。
少し怒ったように眉を上げている。
「ふぇ、フェイトちゃんは、この後…どうするの?」
「どういうこと?」
どうやら、私は逐一言葉が足りないようだ。
まあ、それは彼女も同じであるのだが。
「スプールスについて、から…フェイトちゃんはどうするの?」
視線が私から外れ、空を切る。
「さあ…どうするんだろうね?」
「自分のことなんだから…もっとちゃんとしようよ……」
彼女はいつも、自分のことは後回しだ。
それは彼女の長所でもあるが、短所でもある。
彼女の見上げる先を見つめる。
無機質な天井があるだけに見えるそこには、彼女にとってどんなものが描かれているのだろう。
「ねえ、なのは」
いつの間にか、彼女は私を真っ直ぐ見つめていた。
その澄んだ瞳に、心臓がドキリという音が聞こえたような気がした。
「何?」
首を傾げる。
口が一度開くが、また閉じ、ほんの少しだけ頬が赤く染まったように見えた。
「いや…やっぱり…なんでもないや…」
「……どうしたの?」
聞きたい、でも聞きたくない。
だから言葉尻が弱くなった。
「……きっと、また今度…言うよ」
微笑んだ彼女の影は、どこか薄れていたような気がした。
フェイトちゃんが、どこかに消え去ってしまう…?
あり得そうであり得ないことだ。
心で確信を持とうとしても、身体は勝手に動いていた。
拳二つ分程しか離れていなかった彼女との距離を、自分から手を伸ばして、ゼロにする。
「なのは!?」
急に抱きつかれたことに驚いたのか、急にこんな行動をしたことに驚いたのか。
どっちでも大差ないような気がするし、その時の私にはどうでも良かった。
「どこへも…行かないで……」
腕がゆっくりと回されて、私は安堵した。
「大丈夫、だよ…」
耳元で喉が鳴ったのが聞こえる。
唾を飲み込んだ音。
「あのさ…、なのは…一緒に、」
一度言葉を切り、一度身体を離して、私の顔を真剣な表情で見つめた。
「一緒に…暮らさない?」
「…言いたかった事って、それ?」
そのままの意味で聞いたのだが、彼女の瞳に波紋が広がった。
フェイトちゃんと一緒に暮らせたら、それはとても嬉しい。
でも、彼女が伝えたかったことはそれではないようだ。
「なのは…」
何度呼ばれても、心地よい。
今度は彼女の方から抱きしめられる。
「どうしたの?」
先程と同じ言葉なのに、意味合いは違った。
「………きだよ」
耳元で言われて聞き逃すはずがないのに、私はその言葉を理解できなかった。
言の葉が脳内をひらひらと舞いながら落ちてゆく。
「なのはが…好きだよ…。愛して、るんだ…」
「ふぇいと、ちゃん…」
声が震える。
喜びに満ちても良いはずなのに、心も体も反応しない。
腕が緩められ、彼女の温もりが、消えた。
照れたような表情も形を隠し、自嘲するように口許を歪めていた。
なんで、
そんな切なそうな顔を。
「フェイト…ちゃん?」
その儚さに手を伸ばすが、触れたら壊れてしまうんじゃないかという懸念に駆られて、動かなくなる。
手持ち無沙汰になったその手を、彼女の少し大きいそれが包み込んだ。
「……返事は…無事についてから聞くよ」
いつも一人で抱え込んでしまう、このとても優しい人の手助けをしたかった。
でも、
いつまで経っても
届かない
ゆっくりと絡めていた手を離し、部屋を出て行く彼女の後ろ姿を見て、そう思った。
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彼女は自分に向けられる好意には鈍感だから、私の言葉をそのままに受け止めただろう。
私は、部屋を出た後、へなへなと壁に背を預けたまま座り込んだ。
あんな事言うつもりはなかった。
私はとんだ嘘つきだ。
「馬鹿だな…私……」
気づかなくていいんだ。
気づかないで。
私の真実―ホントウ―に
続く
半年ぶりに髪を切ると何が起きたかと思われるんだね。ただ単にいつもそのサイクルなだけなんだけど。