「了解、しました…」
連隊長からの命令に、私は頷くしかない。
『では、第一大隊から第四大隊まで、ヨンマルマル時を持って、突撃する。貴様には、ヨンサンマル時までに例の八人の―――――』
「…はっ」
私は通信に向かって敬礼し、それが切れるのを待つ。
程なく画面が消えると、私はゆっくり息を吐いて椅子に腰を落とした。
どうやら明後日、ここからそう離れていない世界で、敵国の指揮官などが集まるという情報が入ったらしい。
とりあえず、皆に報告を……
そう思い立ち上がる。
が、
突然脳裏に、なのはの顔が浮かんだ。
なのはにも…?
そんな、こと……
私を見て、彼女はどんな顔をするだろう?
あの日から、私の部屋には戻っていない。
だが、そろそろ仕事場の方で寝泊まりするのも辛くなってきている。
「本当に…終わるのかな?」
終わりの見えない戦争に、私は目を閉じた。
************
一週間ぶりの全員収集に、私は怪訝に思いながら皆と一緒に集まった。
全員に見えるようにと台の上に乗ったその人は、この間まで私の隣りで寝てくれていた人とは思えなかった。
皆よりも特別にしてもらっていたのは、ただ単に私の恐怖を取り除くためだけだったのかもしれない。
彼女だったら、私を可哀想だと思っても不思議ではない。
そう思うと、何故か彼女の笑顔が事務的なもののようで、色褪せて見えた。
「今日の収集は、連隊長殿から直接命令が下ったことの通達だ」
彼女が第一声にそう言った。
「第一、第三、第八小隊。それと、医療班の第二班のみをこの作戦に参加させる。それ以外の者はこの艦に残り、警備に当たれ。作戦開始時間はサンヨンマル時だ」
私を含むのは医療班の第一班。作戦外だ。
「朝食後、作戦参加の部隊、及び班の者は会議室に来ること。以上」
この部隊は人命救助が基本。
それなのに、参加する医療班がたった一班だなんて…。
開始時間が真夜中なのも気になる。
「医療班が出ないなんて、珍しいですね。救助じゃないんですか?」
疑問に思って、隣にいた同じ班の人に声をかけた。
「多分…救助じゃないと思うわよ…。隊長の顔…妙に固くなってるから……あれは多分……」
そこまで言って、その女性も口を噤んだ。
「多分…?」
私は次を促すように相づちを打つが、
「まあ、私達は参加しないし。良いんじゃないかしら?」
彼女は誤魔化すように笑って、続けようとはしなかった。
「フェイトちゃん……」
私は口の中だけで呟いて、彼女のいた方を一度振り返り、部屋に戻った。
************
「フェイトちゃん?」
真夜中になってから、扉が開いた。
私はそこから現れた影に呼びかける。
「あ、あ~……起きてたんだ?」
曖昧に返事を返した彼女。
その姿も、何だかぼんやりしていた。
「ねぇ、明日の作戦って…何なの?」
いてもたってもいられずに、私は最初からその疑問をぶつけた。
「…な、なのはは作戦に入ってないからいいんだよ」
少し慌てたような口ぶり。
視線を逸らすように、彼女は簡易キッチンに向かった。
「でも、ああやって公表したってことは、極秘任務じゃないでしょ?」
「なんで、分かるの?」
フェイトは冷蔵庫から取り出した肉を持ったまま、振り返った。
「お父さんが軍人だったから……」
「……そう…」
火を付けているフライパンに目を戻し、一言。
だが、それ以上は何も言ってくれない。
諦めたくはなかったが、この間のこともあって、これ以上自分から深く聞くことは出来なかった。
「…でもさ!」
それから何も発さなかった口が、フライパンのジュージューという小気味いい音に負けないように声を張り上げる。
「本当にたいした作戦じゃないから、大丈夫だよ」
フェイトはフライパンの中の物を皿に移してこちらに戻ってきた。
「それと…」
ベッドに座っていた私の隣りに、当たり前のように座った。
だが、一人分くらいの間を残して。
「この間は…ごめんね」
何のことだか分からずに、私は一度首を傾げ、
「あ、あれは…私が出過ぎたことを言ったから……」
思い出し、謝罪した。
「いや、私の言い方も少しきつかったかなって……」
食べる?と聞かれて、私は首を左右に振る。
「結構自信作なんだよ。チャーハン」
「寝る前に食べると、太るよ?」
「今日は起きてるし、夕食食べ逃しちゃって」
苦笑して、いただきますと手を合わせ、一口目を放り込む。
「フェイトちゃん……」
「…何?」
「その……」
聞いてはいけない
そんな気がした
でも、
聞かないで蓋をするのは嫌だった
「フェイトちゃんが、私に優しかったのは…その…えと……」
張り付いてしまった喉を潤すためにも、一度唾を飲む。
「私が……可哀想な子だったから?」
自分で言っていて、悲しくなってきてしまった。
もし、肯定されたら……。
胸がまた、つきりと痛む。
なん、で…?
私の中で電流が走ったような、そんな感覚に陥った。
私、は…
フェイトちゃんに特別に思っていて欲しい……?
「なのは…」
私は彼女の声で、反射のように顔を上げた。
「なのはは……他の人より、かなり辛い目にあってきたと思うんだ……」
彼女は、まだそんなに口を付けていないそれをサイドテーブルに置いた。
真剣な紅い瞳。
長い睫毛。
整った眉。
綺麗に通った鼻筋。
柔らかそうな唇。
私は現実逃避のように私を見る彼女の顔に見入っていた。
「だから、私はその心の傷も、身体の傷も……癒してあげたいと思った…」
胸が苦しくなる。
「でも、だからって不憫とか、そういうので接してる訳じゃないよ。そう見えてしまったのかもしれないけど……それだけは言える」
曖昧な答え。
でも、それ以上の答えを求めることは出来なかった。
私自身も、今気づいたのだから。
フェイトちゃんが、好きなんだと。
続く
内容が迷走してるorz
とりあえず、チャーハン食べたい。