隊に着いた頃、なのははずっと緊迫された状態で疲れが出たのか、フェイトの腕の中でぐっすり眠ってしまっていた。ゆっくりと着陸しながら、両膝の下に片腕を回し――所謂お姫様抱っこになのはを抱き直した。
「ご帰還お待ちしておりました!!」
大声で敬礼する隊員をしーっ、と黙らせて、フェイトは自室に行き、なのはを横たえた。
明るい場所で見たなのはの身体には更に細かい傷があり、思わず眉をしかめてしまった。
服もボロボロで、既に本来の意味をなしていない。
「治癒魔法は…あまり得意じゃないんだけどな…」
フェイトはそう呟くと、なのはの下に魔法陣を出して、ありったけの魔力を送る。
今度はやてからシャマルを借りようかと思いながら、魔法陣から出ている細かい光がなのはの傷をきちんと治し始めているのを眺めていた。
だが、時計の長針が二回りほどした後、
(フェイト隊長!協力の要請をされた隊長が、どういうことか説明しろと…)
念話で突然そう伝えられて、フェイトは静かに立ち上がった。
(分かった。今からそちらに行く。転移の準備をしておけ)
(はっ!)
フェイトは自室からそのままトランスポーターまで行き、なのはを捕虜としていた隊に転移した。
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「いえ、彼女たちはこちらでお預かりいたします」
フェイトは、モティズ少佐にそう言いはなった。
「何を言っている!!あれらは元々私が捕獲したのだぞ?横取りとは頂けないな」
フェイトはそんな物言いに眉を顰めた。だが、ここで機嫌を損ねられてはどうしようもない。
フェイトは笑顔の仮面をつけて話し始めた。
「違います。お預かりする、と言っているのであります。
あなた様のような優秀な隊をお持ちの方があんな小娘達を逃がすということは、相当な量の捕虜をお持ちなのでしょう?いくら上が優秀でも、完全に統治できる人間には限りがあります。だから、このような私のような下の者まで使う失態に陥ってしまった。
しかし、幸いなことに我が弱小隊にはまだ捕虜を一人も持ち合わせておりません。従って、そちらの捕虜をこちらで使わせていただく、という事ではご納得いただけませんでしょうか?
下手に目の届かない所において逃がすよりも、私のようなあなたに従順な者に任せておいた方が、何かと便利なこともあるかと存じます」
「うむ…」
無い脳みそを絞って考えているのか、首を傾げて視線を泳がしていたこと数秒、
「それなら…別に構わんが…」
彼はそう答えた。
「はい」
「…お前の捕まえた中に、少女はいなかったか?」
嫌な予感が過ぎる。
「…少女と言いますと?」
「捕虜の中にいたのだが、それも逃亡したようなのだ。数が少ない女に色々重宝していたのだが…」
フェイトは机の下に隠れた拳を強く握りしめた。
「いいえ、こちらの捕獲した中にはおりませんでした」
ひび割れ掛かった仮面が外れてしまいそうだった。こんな気持ちになったのはいつぶりだろう。
「そうか…ならいい。好きにしろ」
「はっ!では失礼します」
フェイトは敬礼して、その部屋を出て行く。強く握りしめた左手には、既に血の気がなかった。
隊に戻ってからも、フェイトの纏う重苦しい空気に、誰も話しかけようとはしなかった。
************
フェイトが再び自室に戻ると、やはりなのはは眠っていた。
細かい傷はすでに完治しているが、それ以上のものは薄くなった程度だ。
まだまだあどけなさの残る顔立ち。年は十四、五歳だろうか?
あの時見た空色の瞳は、今は瞼の裏に隠されてしまっているが、まだ鮮明に思い出すことが出来た。
口に入りかかった髪をそっと退かしてやる。すると、頬にも身体と同じような切り傷が見えた。フェイトはゆっくりと魔力を手に送り、治癒魔法をかける。数秒もたたないうちにそれは消えた。一点に集中する治癒なら完全治癒も出来るが、やはり体中の傷はフェイトだけの力では無理があった。
フェイトは一つ嘆息して通信画面を開いた。
通信先は幼なじみの友達へ。
続く