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「んうっ…」
肌寒さに静留は目を開けた。そこにはいつも通りの天井。
いつものように隣りにある温もりを確かめようと手を伸ばす。しかし、そこにはただシーツの海が広がるばかりだった。驚いて飛び起き、周りを見渡す。
――――いない
いつもは静留の方が先に起きて、朝食の支度なりなんなりをするのだが、昨日はその…色々と盛り上がってしまい、しかもいつもより激しかったので起きるのが遅れたのだ。
静留は散らばったままの服を見つけるために辺りを見回した。だが、それは一カ所に畳まれて置いてあった。いつものなつきらしくない、と静留はくすりと笑い、それを着てリビングに向かう。その途中で少し焦げ臭いような匂いが鼻をついた。
「なつき!?」
すぐに飛び出すと珍しく(というか初めて?)エプロンをつけてキッチンと向かい合っているなつきを視界に入れた。
「ああ…おはよう。静留」
笑顔で静留を迎えるなつき。とりあえず何事も無かったようだ。静留は軽く嘆息すると、なつきの方に近づく。
「何しとったん?」
「いや、その…朝食に何かおかずを作ってやろうと思ったんだが…少し焦げてしまって」
そう言って照れくさそうに頬を掻いた。静留は皿に置いてあるそれに目を移す。そこには多少焦げてはいるがまだまだ原型を留めている卵焼きがあった。
「静留のように上手くはいかなかったが…まあまあだろう?」
得意そうに眉を上げた。
「せやなぁ…ちょう前やったら真っ黒焦げで何がなんやか分からへんやったもんなぁ」
軽くからかうと、煩い、と顔を背けた。
「おおきになぁ、なつき」
頬にキスをする。
「静留の誕生日だからな…少しでもお前に喜んで貰いたいんだ」
今度は静留が頬を染めた。
「誕生日、おめでとう…」
そう言ってなつきは静留に口付けた。
「それ…昨日の夜から何回も聞いとるよ」
「じゃあ、やめるか?」
静留はなつきに抱きついた。
「ううん、なつきに言われるんやったら…何回でも嬉しい」
「それじゃあ、何回でも言ってやる」
なつきも静留を抱き寄せると、もう一度軽く口付ける。
「さあ、ご飯にしよう」
今日という日が始まる。
いつもとちょっと違う特別な日。
二人で過ごす、大切な日。
Fin.