ドォオオオン
と、深く鈍い音が長く轟いて、主砲が爆発する。
否、主砲どころか
『か、貫通してます!』
呆けたような声で通信が聞こえた。
そんなこと言われなくても、見れば分かる。
桜色の砲撃が、空も引き裂いていた。
************
「第一、第二、第三小隊以外はここで待機!」
「はっ!」
私達は十数人で墜ちた戦艦に乗り込んだ。
あの高さからそのまま墜ちてきたのだ。
生きている人間などいないだろう。
でも、トラップが作動していないとも限らないので、あまり多い人数は危険だ。
色々な場所から煙が上がっている。火は所々に見える。
フェイトはそれに気を集中しながら、奥へ進む。
行き止まりになり、右手にあった拉げたドアを手のひら大の魔力弾で破る。
すると、
「魔力?」
ほんのうっすらとだが、魔力が感じられる。
フェイトはそれに誘われるように、更に深部に向かった。
角をいくつか曲がり、分厚そうな壁を一つ破る。
「宝石…?」
そこには蒼い光を持った宝石が大事そうにケースに入って浮いていた。
勿論、今はそのケースもひび割れているし、随所に亀裂が走っている。
「これは…完全に封印して持ち帰った方が良さそうだね……」
然るべき措置を施さないと、後が危ない。
「バルディッシュ!」
《Yes sir》
金色の刃が霧散し、組み変わる。
《Sealing form》
「はっ!!」
バルディッシュを地面に叩きつけると、金色が地を這い、迂回しながらそれを包んだ。
そのまま様子を伺っていると、それはただの石のように力を無くし、カランという音を立てて床に落ちる。
「…?」
全く魔力の気配が無くなった。
例え封印できたとしても、本質は変わらないはずだから魔力は残るはずだ。
多分、アルハザードから奪った魔法兵器の一つだろう。
それを拾い、軽く部屋を散策して後にする。
もう少し内部を調べたかったが、この艦もいつ爆発するかも分からないので、あまり長居は出来なかった。
幸い、他に魔力反応はない。
この艦も、基本は質量兵器に頼っていたのだろう。
フェイトは横に砲撃魔法を放って道を空け、外の空気に飛び出た。
捜査時間を言っておいたので、すでに全ての小隊が外に出ていた。
「フェイトちゃん!」
反射のように姿を見つけて近づいて来たなのはに、フェイトは無条件に笑みを浮かべた。
大丈夫だよ、という意味を込めて。
「さ、戻ろう?」
「…うん!」
************
『特にこれといった情報もないですし…、危険な要素も見つかりませんでした』
「そう。なら良かった」
自室で、通信に答える。
前者は逃亡中の身で情報が入ることは期待していなかったが、何の意味もないものが魔力を持つとは思えない。
それとも、使い切りや、失敗作なのだろうか?
「報告ありがとう。また何か分かったら伝えて」
『はい』
敬礼を済ませて、通信を切った。
そのままベッドの端に腰を落とし、考え込む。
前者ならまだ良いとして、後者の場合、危険度が増す。
急な暴走などもあり得る。
「フェイトちゃん」
頭を小突かれて顔を上げると拗ね三割心配七割という何とも言えない表情をして、空色の瞳が覗き込んでいた。
「また難しい顔してるよ」
「ごめんごめん」
両手を軽く挙げて降参のポーズを取る。
「誤魔化さないでよ~」
更にグイッと顔を近づけてくる。
その間近さに、フェイトは思わず後ずさりしてしまった。
きめの細かい白い肌。
長い睫毛が縁取る、蒼い瞳。
うっすらと開いた柔らかそうな唇。
フェイトの顔に紅が混じると、なのはもそれを意識したのか、同じように陽の色を染めて離れた。
「えと…その…」
沈黙。
視線を合わすことが、こんなにも難しいことだとは思わなかった。
「「あのっ…!!」」
声を発したのは同時だった。
「え、あ、なのはから先、どうぞ!?」
「い、ううん、フェイトちゃんが先で良いよ!」
声が緊張で震えないように、妙に大きくなる。
「いや、ホント、なのはからで…」
「特にたいしたようじゃない、からっ!フェイトちゃん先で!」
「う、うん…じゃあ……」
半ばごり押しで、フェイトは頷く。
そして、そのまま徐に通信を開くと、蒼い宝石が見て取れた。
「これ…見たこと無いかな?」
「あ…」
「え!?知ってるの?」
「願いの種だよ」
とても普通に、当たり前のように、否、アルハザードでは当たり前なのだろうか、なのはは口にした。
「なんかこれに関する昔話があってね。それの模造品じゃないかな?たまに魔力を持った石で作られるけど…特に意味はないよ?安全祈願とか、そんな感じで持ってる人もいるし…お守りみたいなものかな?」
フェイトはまさに呆然の見本のように口を開けていた。
「そうなんだ…すごいね。やっぱり……」
そして、何とも言えない苦笑い。
「それがどうかしたの?」
「ん…、昨日の敵艦から、これが見つかってね。何だか分からなくて困ってたんだ」
「そうなんだ…。フェイトちゃんがつければ?願掛けとして」
そう言って笑った。
フェイトが画面からなのはの方へと顔を向ける。
「で、」
「え?」
「なのはの話は?」
「ふぇ?」
一度考えるように目を上に向け、
「あ、いや…えと…忘れちゃった」
それに対し、フェイトはなのはの変に慌てた様子に、不自然さを感じた。
「本当に?」
「う、うん。忘れちゃうようなことだから、きっと大したこと無いよ。気にしないで?」
さっきと同じようにとまではいかないが、ほんのり頬だけ血色が良くなっていた。
「そう…」
ほんの少し、いや、なのはに隠し事をされるのは結構辛い。
でも、無理に言わせたくはなかった。
とりあえず、このまま順調に旅が進んでくれればいい。
そして……
続く