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「…」
はやては無言でフェイトの手を引いた。
「え?ええっ!?まっ…!!」
「待たへん…!」
つんのめりそうになるフェイトに構わず、はやてはその手を引いた。フェイトは今の今まで話していたその人に別れを告げる間もなく引きずられる。
フェイトは抗議しようと口を開いたが、髪の間から見える真っ赤な耳と少し震えていた声にそのまま口を閉じ、体勢を整えて小走りの彼女について行けるよう走り出した。
着いたのは、人通りの少ない階段の踊り場だった。
「…はやて?」
肩で息をしている彼女に呼びかける。顔を合わせたくないのか、それでもまだ後ろを向いている。
沈黙に耐えられず、フェイトがもう一度彼女の名を呼ぼうとする。
「はやて…どうし「なんでも…あらへん」」
何でもないわけないじゃないか…。
フェイトは心の中で苦笑した。
「はやて…」
そう呟くように言って、フェイトははやてそのままを抱きしめた。ビクッと肩が揺れるのが分かる。
「はやて…」
今度は耳元で囁くように。
「…どうしたの?」
「…ふぇ、フェイトちゃんが…」
さっきよりも声は震えていた。
「…私が?」
不意に、はやてが抱きしめていたフェイトの腕を解いた。フェイトはされるがままに腕を緩めると、今度ははやてから抱きついてきた。
「ごめん…ごめんなぁ…」
フェイトは再度抱きしめて背をさすった。
「何で…謝るの…?」
「だって…」
フェイトがはやての顔を見ると、視線が合わないように俯いてしまった。その先の言葉も続かない。
「部屋…行こうか?」
そう言って、フェイトは回した腕を少し下げ、そのまま抱き上げた。いつもなら顔を真っ赤にして騒ぎ出すはやてだが、今はただ、子供のように肩に顔を埋めて頷くだけだった。
幸い、はやての部屋はそこから近く、誰とも会わずに部屋まで来られた。
「はやて…?」
彼女をベッドに乗せて顔色を伺おうとするが、はやては首に回した手をまだ離さなかった。それどころか逃がさんと言わんばかりに力を強くされた。
仕方がないので、フェイトはベッドに乗って、そのまま自分の膝にはやてを座らせた。
「言ってくれないと…分からないよ?」
「……私、嫌な女や…」
「へ…?」
「フェイトちゃんが…フェイトちゃんが、他の人と楽しそうに話しとるのが…嫌やねん」
はやては泣きぬらした声のまま続けた。
「我が侭やって分かってる…なのに……なのに…なんも考えずにフェイトちゃん引っ張っとって…ほんまはこんな我が侭言いたないのに……フェイトちゃん困らせて…ほんまごめんなぁ…」
しがみついたまま言う自分よりも小さな身体に苦笑する。こんなところも可愛いと思ってしまう自分は重症なのかも知れない。
「大好きだよ…はやて」
ピクッと、はやての身体が反応する。
「愛してる…この世界で…私の中で私が一番愛してるのは…はやてだよ?」
「ふぇ…とちゃ…」
恐る恐る私を見上げた彼女の顔は、涙でグシャグシャだった。それを舌で拭い取る。
「はやてはいい子過ぎるよ…」
そのまま顔中にキスの雨を降らせた。大丈夫だよ、と伝えたくて。
「どんなはやてでも私は大好きだから…」
フェイトははやての目を見て言う。
「全部見せて…。…ね?それに…」
フェイトはそのままはやてを押し倒した。
「私も結構我が侭だから♪」
「え!?あっ、ちょう…まっ!?」
「待たない~っていうか待てない~♪」
「し、仕事は…?」
「ま…たまにはいいじゃない?」
「えっ…本気か!?」
「超本気だよ~♪」
フェイトはまたキスをし始めた。…止まりそうもない。
はやては身体の力を抜いた。どうせかなわない…色々と。
「ありがとう…な…」
はやては苦笑して、フェイトに身を委ねた。
Fin.