「はやて」
私を呼ぶ声。
彼女が呼ぶだけで何よりも甘く感じる、たった三文字。
「フェイトちゃん…」
甘えるようにすり寄って。
「可愛い…」
見上げると、静かな笑顔。
「フェイトちゃんも可愛い」
「はやてには負けるよ」
「ん~ん。フェイトちゃんの方が可愛い」
アホみたいな会話して。
「どう考えたって世界で一番可愛くて愛くるしくて私の腕の中にジャストフィットするのははやてだよ」
「あほ」
あまりに真面目な顔して言うものだから、張り合う気にもなれなかった。
ぎゅ~っと自分で言いながら抱きしめてくるフェイトちゃんの腕を、付け根からそっとなぞる。
「くすぐったいよ」
肩を竦めて、ほんわか笑っている。
「あれ?フェイトちゃんくすぐったいん?」
くすぐったいと言っているのは、あまり聞いたことがなかった。
「まあ、常人並みにはくすぐったいところもあるよ」
「へぇ~」
悪戯心が顔を出した。
グイッと後方に力を入れると、フェイトちゃんは呆気なく倒れる。
振り返って覆い被さると、特に慌てた様子もなく、むしろどうしたの?という顔をしていた。
「じゃあ、こことかは?」
「わっ、ひゃっ…」
軽く身を捩った。
かなり楽しい。調子に乗って脇腹や首筋を擽りまくった。
「ちょっ、はやて!ほん、とやめっ!!」
笑いながらも静止を促すが、私は止めない。
「はや、てっ」
調子に乗りすぎたと気づいたときには後の祭りで、突然世界が一回転したと思うと、背中に固い感触があった。
「え、あ、あの…」
両手を床に押さえつけられ、今度はこちらが慌てる番だ。
「今度はこっちの番だよね…?」
一呼吸整えると、意地悪そうな視線が私を絡め取った。
「え、え~っとそろそろ止めに…」
グッと顔が近づいてきて、私は反射的に目を閉じた。
首筋に濡れた感触。
「ひゃうっ」
思わず声を上げてしまった。
「覚悟しててよね…?」
優しい声が、私の耳元で囁かれた。
Fin.
生殺し