「ねぇ、はやて。勝負しよう」
「…はぁ?」
いつになく真剣な様子に、はやては首を傾げた。
「何で?」
そう聞くと考えていなかったらしく、う~んと唸ると、再びはやてを見た。
「……愛してるゲー「嫌や」」
負けるのが確実なゲームを何故しなければならないのか。
「…模擬戦?」
「却下」
一対一で勝てるわけ無い。
「ババ抜き」
随分手っ取り早くなったな。
でも公平だし、いいかな。
「分かった」
「じゃあ!!負けた方は一日何でも言うこと聞くんだよ!?」
「なんやそれ?」
何か…意図が分かってきたような気がする。嫌な予感もするが。
「ねぇ?いい?」
そんな子犬のような視線は止めてください。
「しゃあないなぁ…」
と、言うわけでババ抜き開始です。
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「勝ったぁ~♪」
もうあり得ないくらい落ち込んでいるフェイトちゃんを尻目に私はそう言った。
「負けた…」
「…フェイトちゃん?」
「負けた…」
「だってフェイトちゃん分かりやすすぎや」
すぐに顔に出てしまうフェイトちゃんにとって、この競技は少し辛いものがあったかもしれない。
「うう…」
随分意気込んでたんだなと、ある意味感嘆する。
「今日は私の言うこと聞いてもらうで~」
「それは…別に良いけど……」
あかん、何かしょんぼりと垂れた犬の耳が見える!!
はやては一つ嘆息すると、体育座りで落ち込んでいるフェイトの目線に合わせる。
「私に何して欲しかったん?」
「今日は二月二十二日だから…」
「うん」
「はやてに猫耳つけてもらおうと…」
「うん…ってなんでやねん!!」
自分でもナイスなツッコミだったと思う。
「だって、今日は猫の日だから、猫のカッコしたはやて可愛いだろうなぁって。そんな姿で甘えられたら嬉しいなぁって」
普段あんまり甘えてくれないし…。と続ける。
普段甘えないのはあまり負担をかけたくないからと恥ずかしいからだというのは分かっているはずだ。
だからあえて、無理矢理だが、記念日になぞらえてそんなことを言い出したのだろう。
……表向きは。
はやてはさらにはぁ、とため息をついた。
「…じゃあ、その…耳とか尻尾とか買うてきたん?」
「うん」
そう言って、一度部屋を出るとすぐに紙袋を持って戻ってきた。
「これ…」
はやてはそれを受け取って中身を出してある意味驚嘆した。
「はやての髪とあうような色にしたんだ」
見れば分かります。っていうか本当に精巧に作られてますね。どこで買ってきたんですか。
「はやては恥ずかしがり屋だけど約束は守ってくれるから、勝負しようかなと思って…」
そう言って再び背を向けていじけるフェイトを横目で見てから、それをまじまじと見つめると、徐にそれをつけた。
「にゃあ♪」
「…へ?」
フェイトが驚いて振り向くと、はやてが耳と尻尾をつけて、フェイトにすり寄ってきた。
「にゃ~」
そう言って、胡座をかいたフェイトの膝に頭を乗せる。
「こ、こんな感じでええ?」
上目使いでフェイトを仰ぐ。
呆然としていたフェイトだが、すぐに目を輝かせて喜びを前面に出していた。
「はやて可愛い~!!いつも可愛いけど!!」
言いながらはやてを抱き上げて、そのまま抱きしめる。
少し恥ずかしいけど…こんなに喜んでくれるなら、まあ、いいかな?…すごく甘えられるし。
はやてはそう思いながら、もう一回猫なで声を出す。
「本当に可愛いよ!!」
とりあえず、十一月一日を楽しみにしようと思った。
Fin.