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なつ静時代劇風パラレル
カオルさまリクエストの小説です。

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「では、祝言は次の月の今日で?」

「ああ、苦しゅうない」

「それでは、今日はこれにて失礼いたします」

父が頭を下げるのを見て、静留もその人に頭を下げた。

「よろしゅうお願いします」

静留は冷めた声で言った。

 

モユルオモイヲ

第一章 アワデコノヨヲ

1.

家に帰ると、静留は父に断ってから自室に戻った。
自分はあと少しでこの家を出て、隣国の大名である神崎家に嫁がなければならない。
先程頭を下げた相手の隣にいた、夫となる人を思い出す。国主になる黎人殿は成程見目麗しかった。だが、どこかいけ好かない。何か裏に隠し持っていそうだ。その上彼の父親、先刻自分が頭を下げた人。彼とはかけ離れた、いやらしい目をしていた男だった。心の内も、容貌と似たり寄ったりなのだろう。自分に舐めるような視線を投げかけてきていた。とりあえず、あの人と二人きりにはなりたくない。
数年前までその地を治めていた国主は自分達の国とも、平等に扱ってくれたらしいが、その人が妻と共に急死し、今の大名になったらしい。よくは知らないが。

「はあ……」

静留は襖に軽く寄りかかりながら、庭を見てため息をついた。
まだ朝なのに、空は淀んでいて暗かった。庭も必然的に少し薄暗い。折角の木々の緑も花の彩りも褪せて見えた。しかも春は近いとはいえまだ寒い季節。静留は少し身震いしたが、気にせずにそのままそこに座っていた。
だからと言って、この婚姻を拒否することは出来ない。この小さな国など、あの国にとっては弱小国に過ぎないのだから、簡単に攻め落とされてしまうだろう。これは所謂政略結婚だ。
はあ、と静留は再びため息をついた。何だか嫁ぐ前から気が滅入ってしまう。たまには城下に遊びに出たい。だが、そう家臣達に言ったら確実にお供の者を何人も連れて、しかも駕籠まで用意されるだろう。
静留はそのまま外を眺めてから、ちょっとした悪戯を思いついた子どものような笑みを浮かべた。


************


人がひしめく大通りを、静留は町娘と同じような簡易な着物を着て歩いていた。幼い頃は良くやっていたが、最近はこのようにお忍びで町に出ることは少なくなって来た。もっとも、その頃は一人ではなく、この服を用意してくれた、父が仲良くしている人の娘の奈緒と一緒だった。
奈緒は静留が唯一心許せる親友だ。その頃から少し天邪鬼だが、優しい娘だった。今も良く城へやって来て、城下の様子や最近の話題などを話してくれている。その頃の奈緒は少々強引で、年下なのにいつも自分を城下に連れ出して遊んでいた。その為大目玉をくらったことは多少あるが、今となってはいい思い出だ。
案の定、今日も来てくれていたので、思い切って頼んでみたのだ。本当は一緒に行くと言っていたのだが、無理に頼んで一人で行かしてもらった。

『静留!外がどれだけ危ないと思ってんの!?いつも私がいたから危険じゃなかったわけで、あんた一人でいったらどうなるか分かったもんじゃないのに………はいはい、分かったわよ。全く……今日だけよ!今日だけ!!暗くならないうちに帰ってくんのよ!!』

と、行く前にぶつぶつ言っていたが、今まで特に何もなかったのだから、大丈夫だろう。
空も幾分明るくなってきたようだ。雲は小さく千切れ、太陽がひょっこり顔を出していた。

そう思って少し油断していたのかもしれない。
前から三人の武士が歩いてきていた。当然町人達はそれを避けながら、頭を下げた。
だが、静留は考え事をしていたのと、久しぶりに立場から開放されて少し浮かれていたこともあり、武士達が通り過ぎたのに気がつかなかった。

「そこの娘!!」

呼び止められ、振り返ってからようやく気づいた。随分とご立腹の様子である。

「貴様!!立場をわきまえよ!!無礼なるぞ!!」

今にも刀を抜きそうな勢いに、少し気後れした。だがすぐに膝を地につけた。

『―――いまのあんたは町娘なんだから、それ相応の態度でね!!―――』

奈緒の言葉を思い出した。

「…堪忍。少ぉし考え事してたもんやから……」

頭が地面につくぐらいに下げる。地面が冷たい。
そのままの状態で数秒。だが、何も返答が無いので少し頭を上げた。一人と眼が合う。すると、表情をいやらしく変え、他の二人と目配せした。

「立てぃ!」

静留は怪訝に思いながらゆっくり立った。

「貴様…随分見目麗しゅう面立ちだのう。どこの娘だ?」

そう言われ、顎をつかまれて、嘗め回すように見られ、身体中が震えた。何をされそうになったか気づいて

「嫌ぁっ!」

咄嗟にその手を振り払ってしまった。途端に三人の顔は赤くなり、怒りに染まっていた。刀に手を置いたのを眼の端で見て、静留は走り出した。

「待てぇ!!」

待てと言われて待つ人間がどれほどいようか。
静留はここが何処かも分からず、ほんのり白い息を吐きながらがむしゃらに走った。かなり走ってから周りに気が回るようになり、よく見てみる。そこはかなり廃れた場所だった。人通りも無い。
角を曲がると前から三人の中の一人が走ってきていた。戻ろうとするが、後ろからも二人来ている。完全に挟み撃ちにされてしまった。

「全く…苦労させおって」

いやらしい笑みを浮かべながら、近づいてきた。
袋小路に入れられてしまって、後ずさるももう後ろがない。

………やっぱり一人で出るんやなかった。

そう思うも後の祭りだ。不意に涙が込み上げてきた。目をギュッと瞑って、次に起こることを甘んじて待つしかなかった。

「何をやっているんだ…!?」

そう、澄んだ声が聞こえた。
薄っすらと目を開けると、人影が見えた。腰に刀は携えているが、髷は結わず、一つに束ねているだけなので、浪人かもしれない。

「何だ!?貴様は?」

「お前達…武士として恥ずかしくないのか?そんな娘に寄ってたかって…」

「何だと!?無礼者!!」

「無礼?そんないやらしい顔しているやつに礼がいるのか?ただ刀で脅しているだけだろう?全く…最低だな」

「貴様…!!叩っ斬ってやる!!」

随分な言われ様に顔を真っ赤にして怒った武士達が、刀を抜いてその人に向かっていった。が、その人は刀を抜く様子はない。思わず顔を逸らしそうになった。


だが、

 

それは一瞬だった。

 

気がつくと、刀を振り回していた三人は既に地に転がっていた。

「全く…」

ふう、と溜息をついてその人はこちらを見た。息を切らしている様子はない。
近づいてくるにつれてその風貌がはっきりしてくる。深い翠の瞳。髪は青みがかった艶のある黒髪が腰の辺りまで伸びている。
背格好は自分と同じくらい、いや、少し小さいかもしれない。だが、その姿とても美しく、格好良かった。

「大丈夫か?」

そう言って静留に手を伸ばした。静留はそれを素直に撮って立ち上がった。

「…何があったか知らんが…、侍と言ってもああいう輩は沢山いるから、気をつけるんだな」

呆然と見つめていると、その人は訝しげな表情を浮かべた。そして何かに気づいたかのように下を見た。

「…鼻緒、切れてるぞ」

逃げてる間に切れたのだろうか?そう思っていると、

「どうしたんだ?話せないのか?」

その人は静留の顔を覗き込むように見た。綺麗な顔が近づいてきて、思わず息を飲んだ。そして再び嘆息し、しょうがないというように表情を変えて屈もうとした。その瞬間

「ぐっ……!」

そう唸って蹲り、自らの肩に手を当てた。よく見ると血が服に滲んでいる。それを見て、静留の硬直が取れた。

「ど、どうしたん?まさかさっきので…」

「あんな奴等にやられるか…。少し動いたから前の傷が開いたんだ…っていうかお前、話せるんじゃないか」

そう言ってゆっくり立ち上がった。

「それじゃ、さっさと帰れよ。もうじき暗くなる」

静留に背を向けて去ろうとした。

「…待っておくれやす!」

静留はほとんど反射的にその手を引いた。

「何だ…?」

傷が痛むのか、ぶっきらぼうな言い方だった。

「こないな怪我してる人、放っとけるわけないやないの…。家に来いひん?」

怯まずにそう言って、静留はその人の腕を自分の肩に回した。

「なっ、何を…!!」

「ええからええから。話は家に行ってからにしましょ。お礼もまだやしな」

疑問系だったはずなのに、いつの間にか行くことが決定済みになっていた。
その人は抗議するように口を開いたが、何も言わせないような微笑みを返され、そのまま静留に身体を任せた。

 

2.

なつきが目を開けると、そこには天井があった。

ここは…?

まだ覚醒しきらない頭で辺りを見回す。どうやらどこかの部屋らしい。かなり綺麗だ。どこか良いところの家柄なのかもしれない。この、自分に掛かっている布団も随分柔らかい。なつきが身体を起こそうとすると、障子の向こうから複数の声と足音が聞こえてきた。

「…め!!………です!?しかも、……つけずに無断に外に出て…何も無かったからいいようなものの、姫の身に何かあったら……って聞いてますの!!?」

だんだんと聞こえてきた声は随分とでかい。とりあえず寝たふりでもしておこう。そう思ってなつきは再び布団に潜った。

「はいはい。聞いてますえ。堪忍なぁ」

この声は…。

「キーッ!!全っ然反省してないじゃあありませんか!!昔から馬の耳にお陀仏になっているのは存じておりますが…「念仏だよ、遥ちゃん!」」

先程から騒いでいる人ともう一人いるらしい。もう足音は襖の前まで来ていた。

「ちょっと静かにしてもらえへんやろか?起きてしまいますえ」

先程より低めの声色に、二人(一人)は気圧されたように黙った。

「お説教は後で幾らでも聞きますさかい、今は二人にしてくれへんやろか?」

「わ、分かりました。もう勝手なことをなさらないでくださいよ」

足音が二つ去って行く。それが聞こえなくなった後、襖の開く音がした。そしてすぐ傍で衣擦れの音。先程助けたあいつが、布団の近くに座ったようだ。

「……起きてますやろ?狸寝入りやったらあんじょうやらへんとなぁ」

幼い頃からあまりいい環境におかれていなかったのでこういう事は上手くやってきていたのに、一瞬でばれてしまった驚きで、布団からガバッと起き上がり警戒するようにその声の持ち主から離れた。
やはり、先刻助けた娘だった。その時は余裕があまりなかったので良く見ていなかったが、緋色の瞳に亜麻色の髪、綺麗な顔立ちの娘であった。自分と同じくらいの年だろう。
そいつは驚いたような顔をしていたが、すぐに優そうな笑みを湛えた。

「あかんよ。怪我してはるんやから、静かに寝とらんと」

そう言ってなつきの手を取ろうとする。なつきはそれを振り払った。

「…貴様、何を考えている……?」

聞きたいことはあり過ぎた。だが、口下手な自分にはどうも一つ一つ問いただすという高等技術は出来ない。

「何って…うちはうちの恩人が怪我しはってたから家に連れてきて手当てした。それだけどすえ?」

そう言った笑顔に邪気は無かった。まだ、警戒は解かないが、様子を伺いながらも布団の中へ戻った。

「ええ子やね」

そいつは嬉しそうに、子どもをあやす様に言った。

「なっ、お前…ふざけるな!!」

なつきは背を向けたまま吠えた。すると、

「静留どす」

「?」

なつきは少し顔をそちらに向け、その人の顔を見た。

「お前やあらしません。うちの名前は静留どす。…あんさんの名前は?」

「……玖我なつきだ」

なつきは不機嫌さ丸出しでボソッと言った。

「なつき……ええ名前やねぇ…」

「お前、何者だ?」

静留がかみ締めるように言った言葉を無視して、なつきは問うた。

「………そんなに知りたいどすか?」

急に静留の声が低くなり、目つきが鋭くなった。なつきはそれを見て、少し物怖じしたが、頷いて次を促す。

「うちが何者かっていうとなぁ……」

二人の間にピリピリとした空気が流れる。

「………それは…」

なつきは緊張で唾を呑んだ。

「……………秘密どす♪」

満面の笑み。なつきは思いっきり力が抜けて、間抜けな顔を晒してしまった。それを見て、静留が苦笑する。

「…ほんま、なつきは可愛ええなぁ♪」

「…ふざけるなっ!!!!」

となつきは大声を上げた。

「大丈夫やて。すぐに分かりますさかい」

そう言って、静留は再び笑った。



続く

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